ひと掻き ひと蹴り (10)

〜 浮上方法 〜

2010.07.10

  

 

■ 重心移動ベクトル化理論

移動運動は、重心(骨盤 or 丹田)が移動しているに過ぎない!

それ以外の部分は、『移動の道具』に過ぎない!

 

というのが、私が唱える重心移動ベクトル化競泳理論だ。

重心移動ベクトル化運動理論を競泳に応用した理論で、内容は同じ事が書いてある)

 

『泳ぐ姿』を見るから、まるで体全体がバタバタと複雑に動いて移動しているように見えるが、泳いでいる人のお尻(重心)をジーっと見つめると、加速/減速を繰り返す手足とは違って、

『骨盤部分が、一定速度で移動しているのが、泳ぐという事だ』

という様子が、目で見て取れる。

 

つまり、

『骨盤(重心)をより速く、しかも、より速く前方に移動させるコース』

を見極め、そのラインにお尻(重心)が乗って移動するのに、もっとも効率が良くなるように、骨盤(重心)に力をかけていけば、それが『速く泳ぐ』という事になる。

 

 

■ 浮上のライン取り

 

第3章でも、『体全体が傾く事によって増える抵抗』という切り口で、『ひと掻きひと蹴りのライン取り』について触れたが、

『ヘタクソ』と『うまい選手』は、持っている『ひと掻きひと蹴りのイメージ(方向性)』が違っている。

 

『ベストな浮上コース』が上図の青ラインだとして、『このラインに、どう体を乗せていくか?』とイメージした時、

『ヘタクソ』は、体全体をラインの上に乗せようとし、

『うまい選手』は、骨盤(お尻)さえラインの上に乗っていれば良く、それ以外の体は存在していないくらいのつもりで、(うまい選手のほとんどは、意識してではなく、無意識の感覚でそう感じてるだけであると思うが、)考えている。

 

『なぜか?それは、なぜか??』

 

それは、

『うまい選手は、斜めに移動する事をベクトルに分解して捉えているが、ヘタクソは、自分の進む方向が常に前だと、深く考えもせずに信じ込んでいて、ゴールのある方が前である事に気付こうともしない』

からだ。

 

凡人の凡人たる所以なのだが、凡人は、『世の中は、自分中心に回っている』と勘違いをして捉えていて、かつ、『踊っている世の中の方に、自分も踊らされている』事に気付いておらず、

挙句の果てには、ずば抜けた素質を開花させる事に成功した選手の『凡人同士が共有する常識に、捉われない発想』を見て、

『一流選手は変わっていて、変人。一流選手には、自己中心主義者が多い』

と、自己中心的に、世の中を真逆に見ている。

 

凡人が凡人であるのは、

『自分の無意識の部分では、自分中心に世の中が回っている(回るべきだ)と信じている』にも関わらず、

意識(理性)では、自分は、自己中心的な人間ではないと思っている』所だ。

 

『自分の頭の前が、前方』ではない。

『ゴールのある方向が、前方』なのだ。

 

 

■ 浮上移動をベクトル化

『上図の例え程度の体の傾き』で考えるから、

『どう力をかけるのが、もっとも効率的か?』

という話が分かり難い。

 

しかも、『前方からやってくる水の抵抗』も考慮する必要があるなど、話が複雑になって、

 

『体を水面側に傾けて浮力を利用すれば、泳ぐスピードが上がって、速いタイムが出るのではないか?』

 

といった、馬鹿げた思想に取り付かれる。

 

 

そこで、水の抵抗を無視出来る条件で、つまり、体の傾きが、

0度の場合(うまい選手)』と『90度の場合(垂直浮上)』

で考える事で、ベクトル(力のかけ方)を拡大して捉えてみる。

 

 

 

どんな方向に向いていようと、自分の体で生み出す事が出来るMAXスピードは同じだ(赤線)。

浮力を最大限活かして、水面側に浮上すれば、浮力の分だけ当然、泳速は速くなる(垂直浮上時の青線)。

 

『ほら見ろ!浮力を利用すれば、泳速が速くなるじゃないか!!』

 

ってな馬鹿げた事を、この図を見てもなお、思うだろうか?

 

 

体を傾けてしまえば、移動の向きがゴールの方向から逸れてしまい、その分だけ、前には移動できない。

垂直浮上なら、泳速はMAXにまで加速され、『誰よりも早く水面に出る』事は出来ても、ゴール方向にはまったく進めない。

(『ゴールまでの距離、つまり泳ぐ距離が、その分だけ長くなる』と考えてもよい)

 

『ゴールに先に到着した方が勝ち』

という競い方をしているのに、『前への移動距離を縮めてでも(より手前で浮上してでも)スピードを上げる』という戦略が、いかにおかしな思想か、分かるだろう。

※※ 備考 ※※
第1章で実際のレースを紹介した時に、

『ひと掻きひと蹴りがヘタな選手は、より早く、より手前に浮上した挙句、出遅れ、

うまい選手は逆に、より長い時間水中にいて、より遠くに浮上して、かつ、先行していた』

のを、思い出すと良い。
※※※※※※※※

 

 

『垂直浮上じゃなくて、斜め45度なら、泳速も速く、かつ、前にも移動できるじゃないか?』

と思うのは、エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)を知らない無知から来た思想で、斜めに移動して行くのは体全体ではなく、骨盤(重心)だけだ。

※※ 備考 ※※
もし、体を傾け、浮力を利用してスピードを上げて、早く浮上した方が良い場合があるとすれば、それは、浮力よりも小さいスピードしか生み出す事が出来ない、かなりのド素人の場合だけだ。

ただ、浮力よりも遅くしか泳げないとなると、相当泳ぎが下手であるため、テクニック云々の理論を体で表現する事はまず無理で、まずは頻繁にプールに通って、水の扱い方を、体で覚えるのが先だ。
※※※※※※※※

 

浮力を意図して前方移動に変換する事はできない。

『浮力は、浮上するために使う』のだ。

(自分の体から生み出した力を、浮くために使うのではなく、前に進むために使いきる)

 

『自分の体から生み出したスピード(赤線)』を、最大限活かすには、ゴールにまっすぐ体を向ける事が一番であり、

また、発生した浮力を最大限利用するには、『浮力を浮上に利用する』のが、もっとも合理的であり、

かつ、前から迫って来る水の抵抗も最小限になって、いい事ずくめだから、

うまい選手は体を水平状態に維持するようにして動作し、浮上してくるのだ。