ひと掻き ひと蹴り (3) 〜 ターンの時にコツを掴む 〜 2010.07.01 |
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■ 正しい『ひと掻きひと蹴り』の全体イメージ
細かい話を抜きにして、"ひと掻きひと蹴り"動作全体の概念イメージだ。
出来るだけ体を水平に維持したまま、前に移動していく事が重要で、 『水の浮力の自然な力だけで、浮上する意識』が水の抵抗を減らし、 頭の天辺から後ろにグーーンと突き伸びる事で、水に力がうまく伝わる。
■ 悪い『ひと掻きひと蹴り』 ヘタクソ諸君の場合、明確な動作イメージを持っていないか、持っていても間違っている。
おそらく、 『浮力を使って急激に浮上すれば、勢いが付いて良いんじゃないか?』 といったような考え方で、下図のような急激な方向転換イメージを使っているのではないだろうか。
これは間違いで、角度を付けてしまうと、正面からやって来る水に、体がぶつかってしまって、大きく失速する。 (水の抵抗問題だけでなく、『推進ベクトル(推進力)を利用する向き』にも、問題がある。ベクトルについては、この後の第10章で詳しく説明する)
そもそも、抵抗には2種類の発生源があって、ひとつは体に水がぶつかって発生する直接的な抵抗だ。
もうひとつは、水流が乱れる事で、後方に水がスムーズに流れなくなる間接的な抵抗だ。 車の開発で、自動車にヒモをつけたりして風洞実験をしているのを思い出すとすぐ分かるが、水流の乱れ(車の場合、空気の流れの乱れ)それ自身が、抵抗になる。
つまり、急激な動作や、急激な動作変化をするだけで、その乱暴な動作が、水流を乱して抵抗になるので、スタートやターンの時だけでなく、普通に泳ぐ時も、急激な動作変化は慎む必要がある。
※※ 備考 ※※ 事について、2008年北京五輪前に、NHKで放送された『ミラクルボディ』という番組の中で、 『深く潜る事で、浮力を利用して加速しているんじゃないか』 という仮説を紹介していたが、それは絶対に間違いだ。
深く潜れば、そりゃ当然、浮上する時の浮力は大きくなる。 しかし、それは物事の一面しか見ていない間違った視点だ。
なぜなら、『深く潜る時にも、浮力の大きな力(抵抗)を受けている事を忘れた仮説』だからだ。 この『行きと帰りの力の合計は、増えも減りもしない』という現象は、熱力学第一法則という物理の大原則で、『エネルギー保存の法則』とも言われる『無から有は生まれない』という大、大、大原則だ。
重心移動ベクトル化理論や、弾道スタート理論で、さんざん使っている『ベクトルの概念』で捉えれば、真上に発生する浮力を、前方移動に利用するのは非合理的であるのは明白で、 深く潜る場合、浮力に逆らう大きなエネルギーを使うだけでなく、 移動距離が前方ではなく、下方向に使われて前方への移動距離が短くなり、 さらに、潜水角度がキツくなってその分、抵抗が増え、失速する。
これだけの無駄を覆すだけの浮力は、エネルギー保存の法則によって、発生しない。
この世に永久機関は存在していないので(エネルギー変換率100%はなく、常に変換ロスが発生する)、エネルギーを水の抵抗にしろ、方向転換にしろ、何かに使った後に発生する力を利用する事は、ロスでしかない。 捨てていた力を利用するなら価値はあるが、わざわざ無駄な動作をして作り出した力を利用するなど、馬鹿げている。
つまり、せっかく壁を蹴って最大加速した状態を、深く潜る分だけ早く、大きく失速させてしまう事に、利点は1つもない。 スタートとターンの時に壁を蹴った時以上のスピードを、泳ぎでは出せないのに、壁を蹴ったこの最大スピードを活かさない理由など、あるわけない。
フェルプス選手が深く潜る理由は、私も良く分からないが、おそらく、 『フェルプス選手は体が大きい上に、通常の選手のような腰から下を動かすドルフィンキックではなく、ミゾオチから下の部分を動かして大きな力を発生させるドルフィンキックを打っている事からして、他の選手と同等の深さでは、水上に足が出たり、蹴った水が水上に吹き上げたりして、効率良く前に進めないから、他の選手より深い位置に潜る必要があるのではないか。』
自分の起こした波を避けて潜る
あるいは、 『泳いで来た時と同じルートでまっすぐターンをすると、ターンの手前までに自分が泳いで来た時の波が消える前に、速い選手ほど突入してしまって、失速する。選手は通常、水中に潜る事で、自分がたてた波を無意識に避けているが(もちろん、造波抵抗を減らす目的もある)、大型で速いフェルプス選手の場合、水中深くまで、自分がたてた波が到達していて(しかも、フェルプス選手は速いので、より早くターンして戻って来て、より大きく波にぶつかる。さらに、他の選手より体ひとつ前に出るフェルプス選手の場合、両サイドのコースの選手が、まだターンをする前で全力で泳いでいて、その波も被る面もある)、それをフェルプス選手が無意識に避けてているのではないか。それは暗に、フェルプス選手の速さは、圧倒的に大きな波を発生させる事で、大きな推進力を得ている事(抵抗を減らして速いのではなく、大きな推進力を生み出す事で速いという事)を物語っているだけではないか。』 と思う。
あるいは、ひょっとするとだが、 『フェルプス選手と言えども、深く潜り過ぎて損している事に、あまりに上手いドルフィンキックのせいで気付けないでいるんじゃないか?もう少し浅くすれば、もっと速いんじゃないか?』 という可能性さえ、私はあると思っている。
番組で紹介された仮説は、絶対あり得ない間違った考え方だったが、フェルプス選手が他の選手たちよりも深く潜っているのは事実で、その時に、 『フェルプス選手が、水の抵抗を最小にしようとする動き』 が、私には見て取れた。 それは、次の章で提案しているテクニックなので、ここでは説明しない。
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