中級者のための平泳ぎ (4)

〜 キック動作 〜

2009.12.10

  

 

■ キックのポイント

【1】
かかとでまっすぐ後ろに押す

『初心者のための平泳ぎ』で説明した要領で、単純に足をまっすぐ前後させればよい。

膝の開き過ぎだけに注意し、引き付け角度や、足首の角度などは、自分のやりやすい感覚に任せ、余計な事を考える必要はない。

大切な事は、『後ろにまっすぐ押すイメージ』を正しく持つ事。

 

 

【2】
ビート板キックの要領で、呼吸動作後に後方にバックしながらキック動作とタイミングを合わせる

体全体の動きとキックの押し出しのタイミングを合わせる事で、より大きな推進力が得られる。

 

 

■ 膝から先を回転させない

初心者のための平泳ぎ』で説明したキックが打てるようになれば、足の動作に関しては、それ以上の、こねくり回すような細かいテクニックはない。

 

仮に、テクニック的な細かい動作があったとしても、足には手のような繊細な神経が生えておらず、細かい動きを真似ようとしても、どうせ、真似など出来やしないし、また、垂直ジャンプの要領で、まっすぐ足を前後させる現在のコンパクトなキックでは、細かい事をこねくりまわすような動作時間もない。

 

細かい足の動きよりも、プルとキックのタイミングを体全体の動作として合わせる事が、強い推進力を生むポイントであり、足の動作は自分の感覚に任せて、単純にまっすぐ前後するだけで良い。

 

『足の引き付け角度』や、『足首の開き角度』を考えたくなるのは、昔の(1990年代までの)、膝から先をグルーンと回すキックの時代があったせいだ。

昔のグルーンと回していた『おばあちゃん座りキック』を使っていていた頃のキックは、動作時間も長く、動作も大雑把で、理屈をこねくり回す動作時間も動作的隙間もあったが、現在のウィップキック(まっすぐ前後させ、後ろに押すキック)では、理性が入り込むような呑気な隙間はない。

 

 

『膝に負担がかかって痛めやすい』という面だけを取っても、旧式キックは採用するべきではないが、推進力の面から見ても非合理的だ。

膝から先をグルーンと回す『おばあちゃん座りキック(回転挟み込み式キック)』では、かかとが外側に開くせいで、膝にバネ状の遊びが出来てしまって水の抵抗に負けてしまい、押し出す力が膝で吸収されてしまう。

 

これは、陸上短距離走のスタートで考えるとよく分かる事で、ハの字状に押し出すと、押し出しの時の反発力が膝で吸収されて、上半身を効率的に押し出す事ができない。

この点は、『重心移動ベクトル化理論』で、すでに詳しく説明しているので、そちらを参考にしてもらいたい。

 

また、単純に陸上で行う『垂直ジャンプ』で、『おばあちゃん座りキック』のようなジャンプをする人間はいない事からも、その非合理的な動きは理解できるであろう。

※※ 備考 ※※
『トップ選手の実際の水中映像を見ると、昔より小さいながらも膝先が回転しているじゃないか』

という矛盾については、上級者の平泳ぎで指摘しているので、そちらを参考にして欲しい。

『イメージ』と『水の抵抗や動作負荷がかかる実際の動作』では、見た目に若干の違いがある。真似るのは、『実際の動作』ではなく、選手の持っている『イメージ』である。
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■ 後方バック式キック

『足の引き付け角度』や『足首の反し角度』に意識を向けない代わりに、『呼吸後の上半身の後方バック』のタイミングに意識を向ける。

 

『呼吸後の上半身の後方バック』と『キック動作』のタイミングを合わせる事で、水面上を滑るように押し出され、強い推進力を生み出す事が出来る。

 

 

プルは『肘』に意識を向けたが、キックは『重心(下っ腹)と膝の関係』に意識を向ける。

2タイミングプルと2タイミングキックがうまく融合しているのが読み取れるはずだ。

(『2'』は、タイミング『2』の後の惰性の動作である)

この図を注意深く見る事で、『プル』と『呼吸』と『キック』のタイミングが、非常に合理的、かつ、効率的にマッチしている事を、読み取って欲しい。

 

この泳ぎ方の『結果的な利点』を一言で示すと、『呼吸後の後方バック』をしながら『足の引き付け、押し出し』を行う事で、足(太もも)の引き付けを小さくしつつ、強く押し出すための膝の屈曲角度を生み出し、強く押し出す事で強い推進力が得られる。

※※ 備考 ※※
『推進力』の視点から記述したが、『水の抵抗』の視点から見ても有利だ。

後方にバックする事を『水の抵抗』の視点から見ると、

『腕を前に出す動作がない』
『膝の大きな屈曲を作れる(強く押し出せる)にもかかわらず、太ももを前に引き付ける動作が少なくて済む』

という利点があり、その分の抵抗を押さえる事が出来る。

つまり、後方にバックしながらキックを入れる事で、

『推進力を増す』
『抵抗を押さえる』

という一石二鳥の効果がある。
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上図は、体内から見た動きとしては、かなり正確に、かつ、わかりやすく表現されている。

(もちろん、私が捉えた感覚であり、私よりも速く泳げる選手は別の感覚を持っているかもしれないが、おそらく、一流選手であっても、上図とそう遠くないイメージを持っているはずだ)

細かい説明を文字でしても、なかなか真意が伝わらないので、『上図の動き』と『自分の実際の泳ぎの感覚』を何度も擦り合わせながら、テクニックを向上させて欲しい。

 

ただ、後方バック式キックの感覚は、ビート板キック時の動きと良く似ているので、その動きと突き合わせると分かりやすいかもしれない。

 

※※ 注意 ※※
上図は、自分の体の中から捉えた体の動きを模式的に表している。つまり、

『お尻がかかと(膝)側にバックして近づき、膝が屈曲するのか?』
『お尻にかかと(膝)を引き付け、膝が屈曲するのか?』

は相対的な事であるため、

『隣の車が前に動いたのか?それとも自分の車がバックしたのか?』

の見分けが付かないのと同様に、カメラから捉えた『動作しながら移動する体』はどこに視点を置いて見るかで違って見える。

カメラから見た映像を分析するよりも、実際に動作している選手本人の体内で感じている感覚を図示した方が理解しやすいため、あえて模式図にしている。

(したがって、『体が前に行ったり、後ろに行ったりして、おかしい絵じゃないか!』という風には捉えないように)
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