中級者のための平泳ぎ (5)

〜 タイミング 〜

2009.12.10

  

 

■ プル動作とキック動作の結合

【1】
伏し浮きの姿勢が、泳ぎの基本である事は、絶対に、避けて通れない

2009年現在の泳ぎは4泳法とも、伏し浮きの姿勢を維持する事で、『下半身』あるいは『重心(お尻、腰骨付近)』を軽くして泳いでいる。

ここまで、述べてきたプル動作とキック動作を結びつけて、効果的に推進力を生み出すには、伏し浮きの姿勢が作れなくてはならない。

 

 

■ 泳ぎの動作感覚

『プル』『呼吸』『キック』のタイミングを合わせる難しさは、

 

『プル』と『呼吸』のタイミング
『呼吸後に水中に沈むタイミング』と『キックのタイミング』
『プル』と『キック』のタイミング

 

といった複数のタイミングが一致して、『タイミングが合う』という状態になるからだ。

 

例えば、

『昔に比べ(1990年代までの泳ぎと比べ)、2009年現在のキックの引き付けタイミングは遅くなっている』

からと言って、単に、足の引き付けるタイミングを遅らせても、タイミングがズレて、おかしな泳ぎになるだけだ。

 

タイミングを合わせる時の絶対必要条件が、

『伏し浮き姿勢を維持したまま、動作する』

事だ。

 

その具体的な動作感覚が下図だ。

 

 

新型の動作感覚図は、特に注意深く捉えて欲しい。

三角形の『形』や『向き』、『黒点線』、『各々の位置関係』などは、すべて意味のあるイメージ図だ(感覚を抽象化したものだ)。

 

三角形は水面側が水平であり、水中側が後方に押しあがるような方向に力が入る。

腕の三角形の場合、肩甲骨の感覚に非常に近く、腹筋の三角形は、丹田を押し上げる感覚に非常に近い(伏し浮きの感覚そのもの)。

 

この抽象化した図の姿勢をできるだけ維持したまま、プルもキックも動作させる。

ストリームライン姿勢を取った時だけでなく、プル/キック動作中も、この抽象化姿勢を崩さないように動作させる事が、タイミングを合わせるコツだ。

 

旧式の泳ぎ(伏し浮きが出来ない人の泳ぎ)は、腰に泳ぎの支点がある。

(しかも、下半身が重く、水中方向に引っ張られる力が常にかかっている)

このため、重心(下っ腹、腰骨)が呼吸動作で上下動する。

 

また、伏し浮きが出来ない人が、ピッチを落としストローク長を伸ばすために、揚力を使って(水の抵抗を使って)無理に体を浮かすテクニックであるグライド姿勢(呼吸後水中に深めに潜り、浮き上がる動作。波のような動き)を使えば、もっと無駄な動きが生じてしまう。

※※ 備考 ※※
20世紀の平泳ぎでよく使われた『グライド姿勢』は現在使われていません。

伏し浮き姿勢が取れれば、上下方向の無駄な動きをする必要はまったくなく、まっすぐ浮き、進む事が出来るからです。

『波打つような泳ぎ方』と『フラットな泳ぎ方』に関する指摘は、上級者の平泳ぎですでに指摘しているので、そちらを参考にして欲しい。

また、泳ぎは『体が移動している』のではなく、単に『重心が移動しているだけ』で、『重心の移動速度を水中で競っているのが、競泳である』事を唱えた『重心移動ベクトル化競泳理論』も参考にしてもらいたい。
※※※※※※※

 

2009年現在の、『伏し浮き姿勢をできるだけ維持したまま動作する泳ぎ方』では、肺(胸、ミゾオチ、浮心)を支点(軸)にして動作をするため、旧型(伏し浮きが出来ない人の泳ぎ)よりも、フラットな移動が可能だ。

 

伏し浮き姿勢が取れているために、腰(重心)は非常に軽く

ちょっと肘で水を引っ掛けるだけで、胸から下が前方にスライド移動し、

かかとで押し出すだけで、水面を滑るように上半身(重心)が前へ押し出されていく。

 

キック動作終了後のストリームライン姿勢中は、まるで、肺(浮心)にぶら下がっているヒモ(ミゾオチから下)が、水流に揺られて、水面に押し上げられているかのような感覚さえ覚える。

 

 

 

■ 感覚イメージを掴め

私が『伏し浮きの重要性』をHPに公開した2008年頃には、『伏し浮き』を馬鹿にする風潮があり、

『伏し浮きなんて出来なくても、選手はやってられる。浮かない人もいるんだよ。浮くには揚力が〜〜〜』

という遅れた意見が、まだまだあったが、あれからわずか2年後の2009年現在、マスターズ雑誌の『SWIM』ですらも、伏し浮きの特集を組むほど、一般的な常識となってきた。

21世紀時代の選手が続々と引退してコーチ業に参加し、20世紀時代の選手の常識が消えつつあるからであろうが、

『情報格差を少なくし、情報面でも平等な戦いが出来る環境を整える必要もある』

という私の思いも、かなり達成された。

 

現在では『伏し浮き』が、『競泳の4種目に共通するフォームの基本』である事は、かなり認知されてきたが、その『感覚』にまで言及された記事は、残念ながら見た事がない(ネット上には、チラホラあります)。

伏し浮き記事の多くは、伏し浮き写真を掲載し、『まっすぐ水に浮く』、と、言われなくても分かっている程度の説明で終わってしまっている。

 

感覚は人によっても違うし、また、言葉で説明するには非常に難しく、『多くの人にしっくり来る的確なイメージ』を提供する難しさもあり、『雑誌として、うっかり嘘は書けない』というプレッシャーがあるためであろう。

 

しかし、その表面的な説明で終わっているがために、

『ぜんぜん出来ない。出来る人と出来ない人がいて、現在の泳ぎは高等過ぎて、凡人には出来ないんだ』

といったような、安易な逃げ思考で、自分の可能性を潰している人が多くいる結果に繋がっている。

※※ 備考 ※※
私自身、2002年には、まったく伏し浮きができず、『俺は男で、足も太く、筋肉が多いから浮けないんだ』と言い訳をしたほど、浮く気配すらなかったので、言い訳したくなる状況はよく理解できる。

しかし、2007年頃、おおよそ浮けるようになり、2009年現在、メキメキ浮くようになり、ベストタイムも上がって来ている。

断言して、『五体満足であるなら、伏し浮きや、そのテクニックを使った泳ぎが出来ない人間は一人もいない』と言い切れる。

『速さ』や『レベル』といった『結果』ではなく、

『チャレンジし続けるその過程に、泳ぐ事の意義がある』

事を忘れず、諦めずにチャレンジを続けて欲しい。
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『イメージできる事ですら、なかなか実現化できないのに、イメージすらできない事は、実現できない。どんな事でも、まずはイメージを掴み、固めて、実現化する』

 

泳ぎを真似るには、泳ぎの映像を真似るのではなく、その選手が持っている感覚のイメージを掴み、自分の感覚と照らし合わせて、自分のイメージに置き換える事が大切だ。