ひと掻き ひと蹴り (4)

〜 水中への侵入方法 〜

2010.07.01

  

 

■ ヘタクソターン

 

 

ひと掻きを開始する水深まで潜る時、ヘタクソは、足が浮いてしまい、エビ反りながら、前に進んでいる。

 

そのせいで、前方から向かってくる水が、背中や足の裏側全体に引っかかり、大ブレーキになってしまって失速し、失速状態からのドルフィンキックでは、バタフライの専門選手だって、うまく加速できない

 

ヘタクソとさんざん罵っているが、実際に私がこの失速に20年近く悩み続けた。

(実際は悩んでいなくて、諦めてたんだけど・・・)

 

私が、20年近く採用し続けた『ヘッポコ改善案』を強いて言えば、

『ひと掻き動作を、さっさと開始し、ひと掻きひと蹴りを早く終わらせて浮上し、泳ぎで勝負する』

だ。

※※ 備考 ※※
だから、第1章のスタート写真を見比べて分かるように、スタートで出遅れる選手ほど、うまい選手よりも手前で浮上し、ストロークを開始している。

第三者が外側映像視点で見ると、

『うまいから、より遠くに出れているかのように見える』

が、実際に動作している私の感覚では、明らかに『ひと掻きひと蹴りの開始タイミング』を、ヘタだった時よりも遅らせていて、上手くなってからは、動作全体をじっくり、ゆっくりやっている感覚があり、

『こんなにのんびりと、ひと掻きひと蹴りをやっていたら、出遅れているんじゃないか』

と水中で思っているけど、自分の感覚を信じたタイミングで動作して、結局、より速く、より前に浮上できている。
※※※※※※※※

 

 

しかし、壁を蹴った時ほどスピードが出る時はないので、早く浮上して泳ぎ始めたところで、ターンのうまい奴(ひと掻きひと蹴りのうまい奴)に痛いほど離される。

 

短水路の200Mだとすれば、超ラッキーが重なって、一回で0.2秒しか離されなかったとして、

0.2秒 × 8回 = 1.6秒

も離されてしまう。

 

引退を悩むほどの限界に近づいている状態で、200Mのベストを1.6秒も縮める事は、限りなく不可能に近く、どんなに泳ぎをがんばった所で、次のレースでも、こいつにはまた負けてしまう。

 

『足の先を沈めればいいだけじゃないか?』

と、そんな事は分かっていても、なぜだか足の先っぽが水面近くまで浮いてきてしまう。

 

この『エビ反り失速問題』は、私の場合、ひと掻きひと蹴りのテクニックとは別の所で2009年末の段階で解決してしまって、正しいストリームライン姿勢、つまり、完璧な伏し浮き姿勢を作れるようになった事で改善できてしまった。

体をまっすぐ、本当の一直線のストリームライン姿勢が作れるようになり(体全体に均等に体重を分散して水に乗れるようになり)、水中でも重心をうまく保てるようになったからだ。

 

しかし、ひと掻きひと蹴りが苦手なブキッチョ選手は、おそらく伏し浮きも満足に出来ずに悩んでいる事だろう。

※※ 備考 ※※
伏し浮きの重要性が当たり前に言われるようになった2010年になってもまだ、

『伏し浮きが出来ない人もいて、自分はその出来ない人だから、出来なくてもいいんだ』とか、『体幹を鍛えないと伏し浮きはできない』などと、言い訳をして逃げる人がいますが、

泳ぎに速さを求めるのなら、絶対に間違いです。

(体幹を鍛える事は良い事だが、伏し浮きとは『まったく関係ない』。しつこい様だが、『まったく』である。伏し浮きは、体全体に均等に重さを分散させる事で水に浮くテクニックで、『体の使い方』の問題だ)

 

伏し浮き姿勢は、ストリームライン姿勢はもちろんの事、あらゆる動作の中で、

『伏し浮きの時に感じる水にスーっと浮いた感覚』

を感じながら動作していて、フォームを作る時のベース感覚になっている。

出来ない人は、根気良く、伏し浮き訓練を続ける必要がある。

 

『出来ない理由(言い訳)』ではなく、『出来ない原因』を心理面も含めて考え、『自分なりに出来る方法』を模索する。
※※※※※※※※

 

 

■ 応急改善策

 

(図は大げさに描いている。実際にここまで潜ると深過ぎる)

 

ターンの直後、真横を向く!以上。

 

体を捻じって下を向くタイミングや深さは、理屈ではなく感覚だ。

理屈で説明できなくもないが、それこそ無駄だ。理屈より、やってみた方が早い。

 

背中よりも、体の横(わき腹方向)の方が体が薄く、薄い方を正面に向ければ面積が小さくなって、ヘタクソなりに、抵抗が減る。

 

もうひとつ利点があって、ヘッポコストリームラインのせいで、足が浮いてしまう人でも、真横を向いた姿勢では、わざとやらない限りエビ反れないため、エビ反り防止効果がある。

 

 

実は、この作戦は、2008年北京五輪前の4月にNHKで放送された『ミラクルボディ』という特番で、マイケル・フェルプス選手のターンの映像を見て気付き、採用した案だ。

(この番組で解説されていた『フェルプス選手が深く潜ってドルフィンキックを打つ理由』の仮説は間違いである事は、前章の備考欄で、すでに説明したが、ここではフェルプス選手の潜る深さはどうでも良い)

 

フェルプス選手のターン
(2回目のサイドキック中)

 

フェルプス選手は、

【1】 体を真横に向けて水中に侵入し、
【2】 そのままサイドキックを開始して、
【3】 徐々に体を捻じりながら下を向いて通常のドルフィンキック姿勢に入り、
【4】 浮上していた。

 

番組では、フェルプス選手の水深に拘り、そこだけしか捉えていなかったが、私は

『サイドキックを使う選手がたまにいるのは知っている。なんで、フェルプス選手も使うんだろう?過去最高のスイマーであるフェルプス選手のずば抜けた水の感覚が、サイドキックを選んでいるのだから、きっと理由があるはずだ』

と思って、考えてみた。

 

そんでもって、

 

『フェルプス選手が、なんで深く潜るかなんて、平泳ぎの俺にはどうでも良いが、フェルプス選手は、深く潜る必要性があって潜ってるんだけど、その深い位置に到達するまで、正面から迫ってくる水に対して体を横に向けて進入する事で前進抵抗を減らそうと、サイドキックを使っているとしか考えられない。

また、紙を縦にして落すと、サっと落っこちるのと同じ原理で、水面に対して体を横に向ければ、水中にスムーズに沈めるメリットもある(薄い体の横を下に向ける事で、沈む時の抵抗が減ってスムーズに沈める)。』

『お〜〜、これは俺のヘッポコターンに利用できるじゃないか!』

 

と思い、採用した。

 

ただ、残念な事に、この作戦を使っても、実感できるほどの効果は、当時は出なかった。

『良いような気がする』

程度だった。

2008年の私は、まだ『伏し浮き姿勢』が完璧に作れず、完成度が80%くらいだったり、肝心のひと掻き目や、ドルフィンキックがヘッポコ過ぎて、この程度の微効果は体感できなかったものと思われる。

 

しかし、ひと掻きひと蹴りがうまく出来るようになって来たここ数ヶ月(2010年)に、体感できる効果が出た。

 

体を横に向けて進入した後、

『体を捻じる動作と、ドルフィンキックを打つために膝を曲げ始める動作』

が、『私の感覚』ではあるのだが、カチっとうまくハマって、ドルフィンキックのギュイーンに繋がる。

 

回転動作によって出来る『若干の水流の乱れ』がスクリュー状に発生して、その中で行うドルフィンキック動作は、スクリュー状に膝をうまく曲げ込む事で、水の抵抗を減らしつつ膝を曲げる事ができるし、蹴り込みもスクリュー状に水をうまく押し出せていけて、ギュイーンとスクリューのような加速ができる感じがする。

 

理屈はどうであれ、とにかく、このギュイーンが気持ち良いのよ。

『他の連中は、今まで、こんなに気持ち良い加速をしていて、苦しいターンの最中に快感を感じていたのはズルイ』と思うほど、気持ちいい。

 

ま、ブキッチョな私のヘッポコ感覚は当てにならないので、体を横に向ける作戦を採用するかどうかは、自分で判断してくれ。

ただ、北島君も、結構、横向いてるよ。

 

2008年北京五輪 200M平泳ぎ決勝