スプーン泳法 (5) 〜 連鎖した力で泳ぐ 〜 高橋 大和 |
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『ゲロを吐く時』を思い出せ!
■ 三重化された力で泳ぐ スプーン泳法では(現在の泳法では)、力が体内でバランスよく三重に重なり、前後方向に押し伸びる力を生み出している。
この『前後方向に押し伸びる力』が、 『水面に、おわんをひっくり返したような姿勢(体幹)』を作り出し、 一見すると矛盾関係にある『静の姿勢』と『動の姿勢』が融合して、 『伏し浮きの姿勢を維持しながら、泳ぐ』という難題をクリアできる。
『三重の力』構造には原点となる動作があり、 『ミゾオチをスプーンに乗せる』というひとつの動作に意識を集中する事で、 『静止した時の伏し浮きテクニック』を、泳ぎの動作の中に取り込む事が出来る。
■ スプーン泳法の作り方 『静止した伏し浮きの姿勢』に使う『力の使い方』で、手足(プル/キック)の出力を上げていけば、そのまま泳ぎに繋がる。
しかし、実際に出力を上げていくと、どうしても手足の動きに引っ張られて姿勢が崩れ、 『静止した伏し浮き』と『泳ぐための動作』の両立がうまくいかず、 『伏し浮きは出来るようになったのに、泳ぎに繋げられず、速く泳げない』 という事態に陥る。
スプーン泳法は、 『伏し浮きの原点の中の原点』に集中する事で、 この両立を可能とする泳ぎ方だ。
伏し浮きで問題になるのが、肺のついていない『重たい下半身』だが、これを引っ張り上げるには、 『胸を前転するつもりで回転させる』 と、その回転に『背中』や『太ももの裏』の筋肉が引っ張られ、結果的に重心が引っ張り上げられる。
下図のようなイメージ感覚だ。
『強力伏し浮き』のイメージ (『頭と腕』には、意識が向かない。ミゾオチから下へ意識を向ける)
※※ 備考 ※※ 『お尻を押し下げる回転方向』になるため、モーターボート泳法では、腰が沈む。
ただ、こんな細かい感覚を捉えながらでは泳げない。 泳いでいる時は、 『卵(胸)を斜めに立てると、スプーンが起き上がるイメージ』 を意識するだけで良い。
■ 力が伝わる感覚 この『ミゾオチ押し込み回転』は、 『吐き切って胃液しか出ない状況で、最後のゲロを吐く時』 と同じ、『ミゾオチの使い方』だ。
【0】 力の発生源 【1】 頭頂部へ突き上げる力 【2】 反作用で地面を押す力 【3】 体全体を弓なりにする力
『ミゾオチを体内に押し込む』というひとつの動作(【0】)から、【1】〜【3】の力が連鎖発生する。
ゲロを吐く時は、手や足には力は入れなくても、かなり強くイキむ事ができる。 つまり、速く泳ぐためにイキんでも、『伏し浮き姿勢』が崩れない。
『伏し浮き姿勢を作る時の体内で発生する力の伝わり方』と、『ゲロを吐く時の力の伝わり方』は非常に近く、 『ゲロのイメージ』なら、『目には見えない体内の力』を第三者にも伝えやすいので、汚いのは承知の上で、あえて例にしたが、 伏し浮きのコツは、伏し浮きの第6章でも書いていて、 『Tシャツを背中側から両手で脱ぐ時』や『ミゾオチを殴られた時』も、(イメージとしては弱いが、)動作感覚は近い。
このミゾオチ回転動作は、『頭を突っ込む』のではない。 頭を突っ込むやり方は、伏し浮きが出来ない人が使う手で、そんな事をしても、下半身はバンバン沈む。
■ 力の発生源 ミゾオチの押し上げ回転動作
ミゾオチを押し上げ、『胸だけを前転させる力』を入れたまま、手足を動かせば、伏し浮き姿勢を維持したまま動作する事が可能になり、 重心は非常に軽くなって、体の下を流れる水流に乗って、下半身が下からも押し上げられる。 (図では、静止した姿勢を例示しているが、クロールを泳いだり、平泳ぎを泳いでいても、感覚は同じ)
泳ぐ最中に意識を集中するのは、この動作だけで、この後に記述してある(1)〜(3)の力は、この動作に自然に連鎖した力(波及した力)だ。
■ 力の連鎖(1) 「伏し浮きを支える力」 伏し浮き姿勢を作り出す力の発生
ゲロを吐く時を思い出すと分かるが、この『ミゾオチの押し上げ動作』をすると、
【1】 続いて、下腹部(丹田)に押し込む力が入り、
という力に繋がっていて、『ミゾオチを押し上げた力の通り道(逃げ道)』になる。
この『通り道』が、『肘から膝までの体重』を『ヤジロベー的にバランスを取って支える』事になる。
つまり、この力で伏し浮き姿勢を保つ事になる。
■ 力の連鎖(2) 「泳ぐための力」 泳ぐための力の発生
ゲロを吐く時を思い出すと良く分かるが、上半身の『吐き上げ動作』とは反対に、下半身を押し下げる力が、反作用的に入る。
この丹田から出力される『ゲロを吐き出す上向きの力』と『下半身を押し下げる力』が、 『上下方向に押し伸びる力』となって、『泳ぎの主力』になる。 (クロールのI字ストロークも掻けるし、平泳ぎも動作できる。バタフライ、背泳ぎもこの力で動作すれば良いはず)
この力は、丹田から、体の中心部分を通って、上下方向に強く押し出され、 手先足先の先端に向かって徐々に弱くなっていって、 上は『肘先』辺り、下は『膝先』辺りまで伸びている。 (手先/足先までは伸びていない。『理屈で伸びていない』のではなく、感覚として、ない)
だから、力まずに力を出せる。 (『力み』が泳ぎを遅くする事については、重心移動ベクトル化競泳理論の第4章を参照)
■ 力の連鎖(3) 「手先/足先で水を捉える力」 先端で水を引っ掛ける力の発生
『丹田から出力された力』は、足先手先の先端に向かって弱まって、上は肘先、下は膝先で、力の感覚が消える。
しかし、そのもっと上の皮膚表面側(背中側)には、背中(ミゾオチ位置の水面寄り。又は、肩甲骨の下付近)を頂点として、 『コンクリートの中に入っているような太目の針金が、ヤジロベー的にシナったような弱い力』が、 手先足先にまで伝わる。
この力が、手先足先で水を引っ掛ける力になる。
ただし、『手先/足先で水を引っ掛ける動作』は、強く意識して動作するものではない。 (『ストロークの見た目』をマネしようとしている人は、この部分に強く意識が向いていて、『弱い力しか出ていない部分』で泳ぎをどうこうしようとするから、見た目の泳ぎはなんとなく似ていても、遅い)
結果論的に、『手先/足先で水を引っ掛ける事もできる』というだけで、 出力される力の度合いとしては、手先と足先の力が釣り合って成立する『弱くて微妙な力』だ。 (この『釣り合い』が、動作していて気持ち良い)
つまり、『手先だけ』『足先だけ』に力を入れても、バランスが崩れて速くは泳げない。 (バランスが崩れると、伏し浮き姿勢が崩れて、水に乗る感覚が消えてしまうために、泳いでいてぜんぜん気持ち良くない)
『体内の力や感覚は目に見えないから、お前が都合のいいように理屈をこねてんだろ。お前のような二流選手が感じる感覚なんて、当てにならんよ。』 という思いを持つ人もいると思うので、『力の三重構造図』に、クロールの動作を重ねてみると、
ほら、ピッタリ。 体幹の使い方を真似れば、I字ストロークでしか泳ぎようがない。
真似るのは、『目から見える表面動作』ではなく、『体内の動作感覚』。
ほら、今まで見えなかったものが見えるようになってるでしょ?
2008年北京五輪 200M自由形準決勝
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