伏し浮き(蹴伸び)技術 (6)

〜 重心と伏し浮きのヒント 〜

高橋 大和
2008.02.01
追記 : 2008.04.10
一部修正 : 2008.08.10
一部追記 : 2009.12.01

  

 

【重心と伏し浮きのヒント】

伏し浮きは、「重心の置き方」と「浮心の取り方」の問題である。

「重心」を感じる事が出来ないと、伏し浮きも出来ない。

 

私の場合、「重心」は、丹田(おへその5cmほど下。図6-1の赤ライン)の所に直径15cmくらいのボールがある感覚である。

筋肉の動きのイメージとしては、丹田にある筋肉をボールのように丸く丸めるようなつもりで力を入れるとよい。

 

お腹を叩かれて、「うっ」っと力が入った辺りが、おおよそ重心であり、その腹筋の力の入れ方が、重心を正しい位置に置いて陸上に立った時の、おおよその腹筋の使い方である。

 

私も当初は「重心」は感じるどころか、どこにあるのかさえ、分からなかったため、高飛び込みの選手などの

「姿勢が良くないといけない競技」

の選手たちに、

「重心とは、どんな感覚で、どこにあるのですか?」

と聞いて回って教えてもらったりした。(それでも、当初はよく分からなかったが。。)

 

重心を正しく置いた姿勢を横から見た時、下図のように骨盤を水平にしなければならない。

 

図 6-1

 

競泳選手の場合、腰を反るイメージがあるため、右側のように骨盤を反った姿勢になる選手が多いが、正しくない。

 

飛び込み競技の選手が、飛び板でジャンプをする時、骨盤を反っていると、重心に力がうまく伝わらず、高く飛び上がれない。

「骨盤をまっすぐ水平にして、飛び板を蹴り、飛び出す」

と、シナった飛び板の反発力を直に重心へ伝える事ができ、高くジャンプする事が出来る。

(飛び板やトランポリンを飛んだ事がないと分からない事だが、膝を大きく曲げたり、腰を反っていると、反発力が屈曲や反りに吸収されて高く飛び上がれない)

 

競泳選手なら、飛び込み競技を生で見る事もできるのだから、飛び込み選手が飛び込み台に立った時の骨盤に注目して、姿勢を見て欲しい。

飛び込み選手が、飛び込む前に飛び込み台上で手を上げ、まっすぐ立った姿勢が、競泳選手が取るべきストリームライン姿勢である。

 

大人の肩甲骨も、訓練をしないとなかなか動かないのと同様に、骨盤も最初はうまく動かす事が出来ない。

(子供はみな、肩甲骨がよく動くが、訓練をしていないと歳とともに動かなくなっていく)

 

骨盤を動かそうとすると、腰骨が動いてしまい、腰を反ったり、お腹を前に突き出したりしか出来ないが、意識していればその内、骨盤を動かす筋肉に、神経が出来て、動かせるようになる。

 

重心を感じて、「浮けるように伏し浮きをする」と、骨盤の位置も自然と飛び込み選手と同様に図6-1左のようになる。

 

実際に水面に浮いた時の力のかけ方を図6-2に示す。

ただしこれは、私が内側に持っている"筋肉の感覚"なので、万人には当てはまらないかもしれないので、自分で自分の筋肉の動きを捉えて練習して欲しい。

 

図 6-2

 

丹田を「押し上げるように」して力をかけ、ミゾオチにはお腹を叩かれて「うっ」となった時のような力を軽めにかけると、浮く事が出来る(ミゾオチ部分の点で支えられている感じ。ミゾオチが浮心となる)。

 

最初はミゾオチを気にするよりも、丹田にある丸いボール(重心)を下っ腹で「押し上げる」というイメージが重要である。

(伏し浮きの出来ない人が、浮心のミゾオチで浮こうと意識しても、いっしょにお腹まで出てしまい、うまく受けないと思う。私は重心を押し上げる感覚から結果的に浮心を感じている)

 

これは私の予想ではあるが、深腹筋(しんふっきん)とも言われる腸腰筋を使って押し上げる、特に大腰筋(だいようきん)を使って押し上げているのではないかと思う。

 

図 6-3

 

上記の図を見ても分かるとおり、大腰筋は太ももの大腿骨に繋がっており、理論的にも「足を押し上げる」事が可能ではないかと思われる。

 

また、私の感覚でも大腰筋を主に使い、腸骨筋を補助的に使っている感じがある。

足(大腿骨)を直接押し上げている感覚はないのだが、それは腕に力を入れて力こぶを出した時に、「盛り上がった筋肉部分」には力を入れた感覚があるが、筋肉の付け根の腱(けん)の部分の肩や肘には力を入れた感覚がない事と同様であると思われる。

 

私の場合、伏し浮きが出来なかった頃は、沈む足腰を「腰の筋肉」を使って骨盤を引き上げようとしていた。

これも私の予想ではあるが、腰の筋肉、つまり、脊椎起立筋肉(せきついきりつきん)といったような背筋に力を入れて骨盤を引き上げようとしても、太もも(大腿骨)に筋肉が繋がっているわけではないので、腰骨を引き上げる効果しかなく、下半身が沈んでいってしまうものと思われる。

 

「腰で骨盤を引っ張り上げる」のではなく、「腹筋側の筋肉で骨盤を押し上げる」のである。

 

このイメージをもっと単純化し、「伏し浮き」を「ヤジロベー」でイメージした図が図6-4である。

(●は「頭」や「つま先」を表している訳ではなく、上半身と下半身の重さのかかるおおよその位置イメージ。大きい●は、おおよそ胸辺り、小さい●はかかと付近)

 

図 6-4

 

理論的には、「支点」がズレているから上半身と下半身の釣り合いが取れず、足側が重たくなって沈んでいくのだが、イメージとしては、重心を

「押し上げているのか」

それとも

「吊るされているのか」

の違いである。

 

「なんで、吊るす方だけ、支点の位置が重心より上半身側に描かれているんだ?ずるい!」

と思ったかもしれないが、腰の筋肉に力を入れても、お尻の中には力が伝わらない。

 

つまり、腰の筋肉が丹田にあるボール(重心)よりも上に付いているので、「吊るされるイメージ」では支点がずれて、足が沈んでしまうのだ。

 

このイメージが理解できると分かると思うが、肺にたくさん空気を溜めても無駄である事は分かるだろう。

肺の空気量は適度な量だけあればよく、多すぎるとむしろ上半身側が浮きすぎて下半身が逆に沈みやすくなるくらいなのだ。

 

また、「なぜ、ヤジロベーの支点の針は曲がっているのか?」と疑問に思うかもしれないが、これは、私のイメージでは「曲がっている針の上に乗っかっている」からだ。

(「針」は痛いので、痛い針に出来るだけ触らないように乗るイメージ。その反作用として、ミゾオチに「うっ」というのと同様の力が入る)

 

丹田を押し上げる力が曲がっているから、針も曲がっているのだが、これは個人的なイメージであり、イメージの持ち方は人それぞれ違うので、自分なりのイメージを掴んで欲しい。

 

また、私は自分が出来るようになるまで分からなかった事なのだが、

「上半身をうまく動かすと、浮けるようになった。重心と浮心の関係を理解した事で簡単に浮けるようになった」

という話を数人の方から聞いた。

 

そのコツを私なりに解釈すると、「肺の寝かせ方を変えた」という事だ。

 

図 6-5

 

人間の胸には、縦長の肺が2個付いている。

これが浮き袋となり、『肺の付いていない重たい下半身(重心と太もも)』を支える力となる。

 

肺を水平に寝かせて、ゲロを吐く時のような(Tシャツを脱ぐ時のような)お腹の使い方で重心を持ち上げると、伏し浮きが出来る。

 

しかし、もし、古い時代のモーターボートイメージで浮こうとすると、基本姿勢(ストリームライン)を採った時に、肺がやや上向きに向いてしまい、そのせいで下半身を支える支点が背筋側にズレて、支えきれず、だんだんと下半身が沈んでいく。一度、沈み始めた下半身は、止まる事なく、どんどん沈む。

 

『肺を寝かせるイメージ』を持ってトライするとうまくいくかもしれない。

(私は自分で出来るようになった後には、このイメージはよく理解できたのだが、伏し浮きが出来なかった時には、首が下がるだけだった。おそらく、以前は肩甲骨をうまく動かせなかったため、出来なかったものと思われる。肩甲骨をうまく動かせる人には、この「肺式イメージ」はかなり有効かもしれない)

 

私も、理屈はすぐに理解できても、実際に伏し浮きを成功させるには、大変苦労したのだが、

 

「腰に力を入れてみたり」
「腹に力を入れてみたり」
「足に力を入れてみたり」
「息をたくさん肺に溜め込んでみたり」
「腰をエビ反ってみたり」

 

しても伏し浮きは出来ない。

 

浮けるようになってしまえば分かるのだが、力を入れる必要はない。

しかし、難しい事に、「力を抜いたから」といって浮けるようにはならない。

 

重心を「浮ける位置(正しい位置)」に置かなければ、力を入れても、入れなくても浮けない。

 

伏し浮きが出来た時、結果的に、骨盤は図6-1左側のように水平になっている。

 

少し出来るようになってきた時に

「手の先を少し水面に出すと、なんとなく浮ける」

と多少マシな伏し浮きが出来るようになるのだが、もちろん大進歩であるのは間違いないが、これはまだ完全な伏し浮きではない。

 

伏し浮きは、力を入れたり、体をゴニョゴニョ動かさなくても自然と浮ける。

 

「体が浮けるような位置に重心を置く事」

で、浮けるようになる。

 

従って、「自分の重心」を"感じられる"ようにならなくては、伏し浮きは出来ない。

逆に言うと、伏し浮きが出来るようになると、自分の重心を感じ取る事が出来るようになる。

 

「重心」は理屈ではなく感覚なので、あとは自分で努力して掴んでいくしかない。

 

注意して欲しいのは、腰痛持ちの選手は、腰に力を入れる事に最大限の注意を払ってほしい。

私も立てないほどに腰痛が悪化した。

伏し浮きをするのに、腰に力を入れる必要はない。

 

腕に力を入れたからといって、速く泳げるわけではないのと同様に、腰に力を入れたからといって浮けるようにはならないので、無理に腰に力を入れる事だけは避けて練習して欲しい。