重心移動ベクトル化 競泳理論 (4)

〜 力の入れ方 〜

2010.08.01

  

 

■ 力むと重心にブレが伝わる

『力む(リキむ)と速く泳げない』

のは、経験的に誰でも知っている。

 

もう少し競泳選手的に表現すれば、

『力んで泳ぐと、泳ぎがバタついて、前に進まない』

 

なにも、泳ぐ時だけではなく、重い物を持って歩けば、ロボットのようにぎこちなくなるし、

『リラックスして動作する』のは、ゴルフや野球、すべての運動に共通する事だ。

 

なぜだ?

なぜ、力むと運動性能が落ちるのか?

なぜ、力むと速く泳げないのか?

 

『力んだせいで、速く泳げない』

という表面に現れてきた事実を、根本部分から見上げて考えると、

『速く泳げなくなったのは、重心の移動が、何らかの理由で遅くなった』

という事だ。

 

 

遅くなる原因としては、

 

【原因 1】 スピードそのものが落ちた
体から出力できる力が、小さくなった.。(出力が小さくなってしまった)


【原因 2】 移動ルートが曲がりくねっている
出力は同じ、あるいは出力は大きくなったにも関わらず、移動ルートが曲がりくねっているせいで移動距離が長くなってしまい、結果的にゴールするまで時間がかかった。

 

といった2つの原因が考えられるが、

ベンチプレスでMAXの重りを上げる時には、MAXまで力まないと力が出ない事からすると、【原因 1】の可能性は低いか、影響が小さいと考えるのが妥当だ。

(丹田から出力された力が、力みによって体全体にうまく伝わらなくなり、結果的に、体全体から出るスピードが落ちる事は、十分ありえるが、『腕だけ』といった局所的に見ると、力んでも力が出るはずだ)

 

【原因 2】の可能性を探るのに、こういう思考実験は、どうだろう。

 

重心(あるいは、水面に浮いているボール)にヒモを付けて、ブルブル揺すってみる。

もう一方は、重心に棒を付けて、ブルブル揺すってみる。

 

 

ヒモの場合なら、当然、その揺れは吸収されやすく、重心に伝わりにくい。

 

ところが、棒の場合では、棒の揺れが重心に伝わり、重心まで上下してしまう。

しかも!発信源の揺れの大きさよりも、重心に伝わった後の揺れの方が大きくなってしまう!

 

実際の体で例えれば、

『力んで泳いでいると、肩(や膝など)で発生した小さな上下動が、重心には大きくなって伝わり、肩以上に大きな揺れとなってしまって、泳ぎがギクシャクしてしまう』

事を意味している。

 

つまり、バタバタ動かしている手足の動きが重心に大きく伝わってしまって、重心が最短ルートで移動しなくなる。

(100kgの重りを持って歩く時、ロボットのようにギーコ、バーコして、腰を揺すりながらしか歩けない事をイメージすると良い)

 

 

さらにいやらしい事に、そもそも力んでしまうと、手先/足先にも力を入れる事になって、上半身や下半身自身が大きく上下動してしまって、重心に更なる悪影響(ブレ)が及ぼされてしまう。

 

『速く泳ぐ方法は、重心をまっすぐ移動させる。力を入れやすく、かつ、重心をまっすぐ移動させられるフォームが理想のフォーム』

であるのだから、力むだけで、理想のフォームが作れなくなってしまう。

 

面白い事なのだが、世の中は逆説的に出来ていて、

『重心をまっすぐ運べば速く泳げるんだから、重心を動かしちゃいけない』

と考えて、重心周り(腰周り)に力をいれると、逆に重心をまっすぐ運べなくなる。

 

『重心をまっすぐ運ぶためには、力を抜く必要がある』のだ。

 

 

■ 重心から上下に向かって力をスーっと入れる

リラックスとはいっても、癒されたい一般人が言うリラックスまで脱力してしまっては、もちろん、まったく力が出ない。

一般人のいうリラックス状態になるくらいなら、力んで泳ぐ方が、まだましだ。

 

『力まずに、力を入れる』

という相反する事を成立させる感覚が、水泳にはある。

 

それが、伏し浮き姿勢だ。

伏し浮き姿勢を作る時に使う力が、スーっという力の入れ方で、この時の力の使い方のまま、出力を上げていくと、力まず力が伝わり、より楽で、より速いペース配分で泳げる。

 

これは、ヨガや太極拳でも言われる力の入れ方で、

普通に力んでしまうと、脳に入ってくる力の刺激が大きすぎて、微妙な水の感覚が掴めなくなる(感じなくなる)が、

スーっと力を入れる場合は、力を入れているにも関わらず、感覚は逆に研ぎ澄まされる。

 

 

水の感覚が鈍ってしまっては、水流のまっすぐ流れる感覚を掴めないので、『まっすぐ泳いでいるつもり』にはなれても、実際に重心をまっすぐ動かしていく事はできないが、

重心から上下に、まっすぐスーっと力を入れると、力が入るのに、感覚までも敏感になるため、水流の流れを体で感じる。

 

この力の入れ方を、ヨガでは、

『かかとから肛門、頭の天辺に向かってまっすぐ、大地のエネルギーを吸い上げる』

な〜んて、習う。

 

『大地のエネルギー』は、表現の問題で(だと思う)、私はまったく感じないが、

確かに、伏し浮き姿勢の力の入れ具合はこれと同じで、重心から上下に引き伸ばされるようにして力を入れる。

 

この力の入れ方は、骨盤の向き(水平に骨盤を保つ)や、重心の感覚(丹田の感覚)を感じられるようになる必要があるため、この感覚をまだ持っていない人は、非常に苦労する。

 

ブキッチョな私の場合だが、飛び込みの選手やコーチにしつこく食い下がって指導を乞い、『立ち方』『歩き方』から教わって、最初のきっかけを掴むだけで5年くらいはかかった。

『伏し浮き』に至っては、8年弱もかかったが、私の場合、不器用な上に、元々非常に姿勢も悪かったので、普通の人たちは、もっと早く手に入れることが出来るはずだ。