平泳ぎ (2)

〜 位置エネルギー利用理論の嘘 〜

2008.10.01
一部修正 2011.03.20

  

 

1990年代にバローマン選手や林亨選手の大きな上下動をしているように見える平泳ぎを目にして、上下動の大きい平泳ぎが流行った。

『波がうねるように泳ぐ』という事からウェーブ泳法、ウェイブ泳法、wave泳法と呼ばれていた。

 

 

『大きく起き上がった上半身の位置エネルギーを利用して、前方に上体を突っ込んで運動エネルギーに変換し、加速する(うねるように泳ぐ)』

という考え方が言われたが、これは物理学を完全に無視した間違った考え方だ

 

上体を水面上に高く起き上がらせれば、その分、失速するだけの事だ。

 

※※ 参考 ※※
マイク・バローマン選手は1990年当時、200M平泳ぎで圧倒的な強さを誇り、1989年にバローマン選手自身が出した2分12秒台の世界記録を、1992年までに2分10秒16まで伸ばした。

この記録は、2002年に北島康介選手が更新するまでの10年間破られなかった。

 

 

林亨選手は、1987年のルール変更で水没解禁となった後の最初の世代で、北島康介選手が日本のトップに立った2000年シドニー五輪代表選考会までの10年間、ウェーブ泳法で日本の平泳ぎを引っ張り続けた。

渡辺健司さんは、中学3年生で水没禁止時代の1984ロス五輪に出場し、水没が解禁された1988年ソウル五輪、1992年バルセロナ五輪の3大会に連続出場し、水没解禁の変革期を切り抜け、記録を大きく伸ばした。
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この宇宙には、『無から有は生まれない』という大原則があり、それを唱えた『エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)』があって、エネルギーは増えも減りもしない。

 

エネルギーが増えたように見えるのは、別の所で使っていたエネルギーを削って捻出して来たものだし、

減ったように見えるのは、波に変換されたり、熱として放熱されただけなのだ。

これは、高校で習う『物理の大原則』だ。

 

つまり、上体を起こして得られた位置エネルギーは、『無』から突然生まれたものではない。

単に、『推進力に利用すべき運動エネルギーを、上体を起こすエネルギーとして浪費して得た位置エネルギー』なのだ。

 

簡単に言えば、『推進力を捨ててまで、高さを得ようとした馬鹿げた理屈』で、

『高くウェーブしている間に、大きく失速している事を忘れた理屈』なのだ。

 

 

『いや、背筋を鍛えて背筋力で起き上がれば、腰も沈まないし、手で水面を押して起き上がる必要もないじゃないか?』

という考え方は間違いだ。

陸上の背筋運動で上体を起こせるのは、固い地面から反発力を得ているからで、水面のようなやわらかい物からは反発は得られない代わりに、腰が落ちる。

 

 

そもそも、単に熱力学的(エネルギー的)に見ても、

競泳は前方への移動速度を競っているのに、上下方向への動きにエネルギーを使う意味が分からない。

 

例えて言えば、

『ピョンピョン飛び跳ねながら走る車の方が、地を這うように走るF-1マシーンより速く、エネルギー効率も良い』

なんて馬鹿げた話はありえないだろう。

 

ベクトル的に言えば、

『同じ力で泳いでも、波がうねるようにジグザグに進んでしまえば、その分、前には進めない』

という事だ。

 

腰の位置が『1M進むのに、1cm分上下した』とすれば、100Mのレースで101M泳ぐ事に利点などあるはずがない。

 

(『まっすぐ』については、重心移動ベクトル化競泳理論で詳しく述べている)