重心移動ベクトル化 競泳理論 (5)

〜 「伏し浮き」と「ストローク」 〜

2010.08.01

  

 

■ 伏し浮き

水泳は、非常にラッキーなスポーツで、浮力だけで体を支えれば、道具である手と足の能力を、すべて推進力に使う事が出来る。

 

 

それを実現させるテクニックが『伏し浮き』で、浮力だけで水面にジーっと浮き続けるテクニックだ。

(『スカーリング』や『プールの底を蹴り上げた時の勢い』、『蹴伸びで壁を蹴った時の勢い』がある内だけ浮けるのは、伏し浮きではない。『浮力だけ』で浮き続けるのが『伏し浮き』だ)

 

伏し浮き

 

映像を外側から見た『見た目』的な特徴としては、背中側が一直線(お腹はへこんでいる)になっていて、

体内の力の感覚から捉えると、お腹側(体の表側)にスーっという力を入れている。

※※ 備考 ※※
『コツ』や、『力の入れ方』や、『イメージ』は、伏し浮きのページで詳しく説明している
ので、そちらを参考にしていただきたいが、

伏し浮きは、『体重を体全体に均等に乗せるテクニック』で、『体の使い方』の問題である。

 

『体の使い方』なので、体幹をわざわざ鍛えなくてもできるし、五体満足なら例外なく全員できる。

言い訳をしていると、いつまでたっても出来ないままだ。
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これが、陸上競技などであれば、浮力の助けはないため、自分の体から発生させた力を、

【1】 重力に反発して、体の位置を保つ力
【2】
推進力

2つに分散せざるを得なくなり、自分の力をすべて推進力に使う事が出来なくなる。

 

 

■ 伏し浮きが出来ない

 

1990年代頃まで使われた旧型のモーターボートイメージのストリームライン姿勢では、伏し浮きができない。

 

新型のストリームラインが背中側でまっすぐな姿勢を作ろうとしているのに対し、旧型は、モーターボートが水面を走るイメージを使っていたため、

腰に力を入れて腰を反ってお腹側を平らにしていたため、体全体が弓なりになっていた。

 

新型と旧型のストリームライン姿勢では、見た目も、筋肉の使い方も真逆だ。

 

この旧型ストリームライン姿勢では、骨盤を水平に保てず反ってしまい、体重を体全体に均等分散する事が出来なくなり、重心が沈んでいく。

※※ 備考 ※※
逆説的で、ちょっと面白い事なのだが、

背中側をまっすぐするには、おなか側の筋肉を使い(新型ストリームライン)、

おなか側をまっすぐするには、反対に腰の筋肉を使う(旧型ストリームライン)。
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■ I字ストロークとS字ストローク

ここまで説明しても、

 

『伏し浮きが出来なくても、ほんの少しスカーリングをするだけで、俺は浮ける。飛行機が飛ぶのと同じで、泳いでスピードが出てくれば浮くから、伏し浮きなんてできなくたって関係ない』

 

といった主張(言い訳)をする人がいるのは、『ベクトルの概念』を持っていないから、

 

『スピードを上げて浮いたとしても、その分だけスピードが遅くなる。(体の位置も、スピードも)両方とも維持しようとすれば、その分疲れて、レース後半で失速する』

 

という事が、どうしても理解出来ないからだ。

※※ 備考 ※※
水に浮くボールと、沈むボールを、流れるプールに流す事をイメージすれば、理解しやすい。

 

例えば、

『水に浮くリンゴと、徐々に沈むリンゴがあったとして、それを流れるプールに入れると、どっちがより速く、そして、より遠くに流れるだろう?』

という思考実験をすれば、答えは簡単に分かる事だろう。

 

鉄球でない限り(「鉄球」は「水泳初心者」の例え)、水に沈むリンゴだって徐々に沈みながらも前方に流されていくが、より速くゴールするのは、水面に浮き続ける事が出来るリンゴであるのは、当然の事だ。

(ちなみに、本物のリンゴは、水中に沈んでいくような気がするけど、水に浮きます。沈むリンゴもあるのかもしれないですが・・・)
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伏し浮きが出来て、浮力だけで体を浮かす事が出来れば、自分の体から出力される力は、すべて推進力に回せる。

 

『泳ぎの感覚世界』で表現すれば、

 

『まっすぐ前に進む事だけを考えて泳げば良く、直線的なフォームを組み立てれば良い』

 

という事で、クロールのストロークテクニックで言えば、新型のI字ストローク(ストレートストローク)に相当する。

 

(重心にかかる)プル/キックのベクトル図

 

ところが、伏し浮きのテクニックを持たない人は、自分の体が沈まないように保つための力を、プルやキックの動作の中で作らないといけない。

 

『泳ぎの感覚世界』で表現すれば、

 

『前に進む事以外に、体が沈まないような動作を作り出す必要があって、うねるような動作感覚が必要になる。

しかし、感覚世界では、うねる分の無駄な距離を体感する事もできないまま、どのくらいうねればベストなのかと、無駄な方向で悩む必要が出てくる』

 

という事で、クロールのストロークテクニックで言えば、旧型のS字ストロークに相当する。

 

 

確かに、1990年代まで使っていたS字ストロークの時代には、

 

『キャッチを横にスカーリングして開いた後、体の中心線まで絞って押し出すS字ストロークが良いのか?

それとも、中心線を通り越して反対側まで絞って押し出す大きなS字ストロークの方が良いのか?』

 

という議論があった。

 

『結果的に重心がぶれない方が良いストロークで、速く泳げる』事を忘れたまま・・・。