ひと掻き ひと蹴り (5)

〜 ブレストキック式 ドルフィン 〜

2010.07.01

  

 

■ ブレストキック式 ドルフィン

 

ブレストキック式 ドルフィン

 

と聞いただけで、『あおり足が超苦手な平泳ぎの選手』は、

 

『あれだ!バタフライで疲れてきた時に、2キック1プルが出来なくなって、1キック1プルになり、挙句は、ドルフィンキックを打つのも苦しくなって、こっそり平泳ぎのキックを使っちゃうあれだよね!』

 

と、ピーンと来たはずだ。

 

そう、これは、

足の甲を使って打ち込むドルフィンキックは進まなくても、足の裏を使う平泳ぎのキックは得意なんだから、足の裏を使って挟めばいいじゃん!作戦

なのだ。

 

『足裏を拝むように合わせて、挟んで進む作戦』というわけだ。

 

今から4ケ月前の2010年2月、私は1週間後の短水路マスターズ大会に備えて、水の感覚を感じながら気持ちよく泳いでいた時、脳みそが暇だったので、突然、ふと、ピーンと思いついたのだ。

20年間一度も疑問に思わなかった事に、突然、大きな疑問を持ち、これをきっかけにして、短期間にメキメキ上達する事になったのだ。

 

 

■ ひと蹴り ひと掻き ひと蹴り

『スタート/ターンで、ひと掻きひと蹴りをして浮上してくるのは遅いくせに、25M潜水は速い。水中に潜り続けて、連続で、ひと掻きひと蹴りを続ける分には速く泳げる』

という事に疑問を持ったのは、この時だ。

 

『なぜ?どうして?』

疑問を持った事について深く考えるのは簡単でも、疑問そのものを最初に持つのは、とても難しい。

 

スタート/ターンで浮き上がる時の『ひと掻きひと蹴り』は遅いのに、

『水中で平泳ぎのキックを蹴った直後の水中プル動作』

は、ギューンと進む。

 

水中プル動作の後の水中ブレストキックがギューンと進むわけではなく、

水中ブレストキックの後の水中プル動作が、信じられないほど良く効くのだ。

 

しかも、ブレストキックの後のプル動作で使うドルフィンキックなら、良く効く。

 

って事は、

『ドルフィン、ひと掻き、ひと蹴り』

じゃなくて、

『ひと蹴り、ひと掻き、ひと蹴り』

で浮上すれば、すげー速いんじゃない?と思って試してみたのよ。

 

どぉ?すげー速いでしょ?

『キック、プル、キック』で浮上してくれば、出遅れない自信があるでしょ?

 

※※ 備考 ※※
ドルフィンキックは、プルの前半部分に入れる方が速い。(日本水泳連盟が出している『月刊水泳』にも実験データーあり)

 

ルールでは、プル動作の開始前にドルフィンキックを入れると、それは、『一連の動作』ではなくなってしまって失格なのだが、オリンピックなどの水中映像を見ても、実際には、

『最初に膝を曲げ、ドルフィンの打ち込みとプルがほぼ同時』

くらいで動作している。

このようなグレーゾーンのタイミングなら失格は取られていないが、ドルフィンキックを完全に先に打ってから、プル動作を開始すると、失格を取られるはずで、注意が必要だ。

 

まー、ただ、ブキッチョのドルフィンキックは、プルの中盤から後半で打っているはずで、そんなブキッチョのドルフィンキックでは、完全に先にドルフィンキックを打ってしまうと、失速するだけで、ぜんぜん進まないので、ここを読むほど苦労している人は、『早過ぎるタイミング』による失格を心配する必要はないはずだ。
※※※※※※※※

 

 

■ 擬似ドルフィンキック

ただ、『ひと蹴り』ほどしっかり足首を反してしまうと、足首を反した時に、かかとに水が引っかかって、大きく減速してしまう。

 

それに、2006年のルール改正で許されたドルフィンキックは、

『ひと掻きひと蹴りの一連の動作の中で、1回だけドルフィンが入るのは許す』

というものだから、『キック、プル、キック』では、失格を取られてしまう。

 

あくまでドルフィンキックの代わりに、足首を反さない平泳ぎのキックを入れる。

それが、『足の裏で水を挟む』やり方だ。

 

【1】 引き付け
膝を軽く曲げつつ、足を少し開いて、

【2】 打ち込み
足首を反さず、そのまま、

足の裏で捉えた水を挟みつつ、打ち込む。

 

これで、ドルフィンもどきのキックが打て、しかも、今までとは比べ物にならないレベルで、『ひと掻き』が進むようになったはずだ。

(私はこの擬似ドルフィンキックを思い付いて1週間後のマスターズ大会で使ってみたのだが、スタート/ターンの出遅れはかなり改善された)

 

 

■ 重要なポイント

『挟み込み式 擬似ドルフィンキック』で進むようになる事以上に重要な事は、『水を捉える位置』だ。

 

 

自由形やバタフライのキックがうまい選手は、足の外側で水を捉えて打っている(ようだ)。

ドルフィンキックが進まない平泳ぎの選手も、この情報と同じ要領で、ドルフィンキックを蹴ろうとして、失敗している(図の×印)。

 

私がここで提唱している『挟み込み式 擬似ドルフィンキック』では、当然、足裏の『土踏まず』付近で水を捉え、そこに水が流れていく感覚が得られるようになが、

ドルフィンキックが進まない平泳ぎの選手がドルフィンキックを打つ時、こんな所に水を感じていないはずだ。

 

この『足の内側に水が流れていく感覚』を感じる事が、この後の訓練に大きく影響してくる。

 

固定概念のせいで、『足の甲の外側』と『足の内側』という、発想もしなかった真逆の感覚を知る事が、ドルフィンキックが下手な平泳ぎ選手が、まっとうなドルフィンキックを打てるようになるのに、重要なポイントのひとつになってくる。

(『挟み込み式 擬似ドルフィンキック』でも、そこそこ進むのだが、成功率が悪かったり、蹴りの安定性が悪い等の問題があるので、この後の訓練で、本物のドルフィンキックをマスターしていく。)

 

 

自由形や背泳ぎ、バタフライの得意な選手が、足の甲の外側で水を捉えてキックを打てるのは、おそらく、足の付き方に違いがあるせいであると思われる。

彼らは、足を内転させ、足首を内側にして蹴るキックを打つ事に、何の苦痛も感じていない。

(逆に言えば、彼らは、膝を外転気味にして蹴る平泳ぎのキックを、非常に苦手にしている)

 

 

ドルフィンキックが苦手な選手は、この足首が出来ない。

(苦しいながらも足首を内側に向ける事は出来ても、うまく使って水を捉える事が出来ない)

 

平泳ぎの選手の多くは、膝が開く方向に(骨盤が開いた方向に)足が開いて付いている。

一般にいうガニ股に近い足の付き方をしている。

 

平泳ぎのキックを打つ時には、このガニ股風の足は最適なのだが、フリーのキックや、ドルフィンキックのような『内股系のキック』には、まったく向かない。

内股方向に足を捻じれない平泳ぎの選手が、足の外側で水を捕らえようと思っても、足の外側が水を水平に捉える事ができず、水が逃げてしまって(水を切ってしまって)、ドルフィンキックがすっぽ抜ける。

 

足の付き方そのものが平泳ぎの選手とは違うので、ドルフィンキックを専門に使うバックやバタ、フリーの選手にいくら教わっても、平泳ぎの選手のヘタクソドルフィンは改善しない。

 

そこで私が教える、

『足の内側で水を捉える、平泳ぎ選手専用のドルフィンキックの打ち方』

が、ヘタクソドルフィンキックを改善させるターニングポイントになる。

 

 

■ 本格的なドルフィンキックを目指す

『ドルフィンキックが苦手な平泳ぎ選手』にとって、ここまでの改善策は、簡単に出来てしまって、かつ、効果も高いが、安定性に欠ける面がある。

そこで、次章からは本格的なドルフィンキックを訓練し、『スタート/ターンは得意』と言えるレベルにまで高めていく。

 

しかし、心配は要らない。

 

確かに、ここまでのレベルに比べれば、かなり精密で高度なテクニックになっていくが、

平泳ぎのひと掻きひと蹴り専用の1回だけのドルフィンキック』

なので、バタフライの選手のように、連続ドルフィンキックを打てるようになる必要はない。

実際、私はひと掻きひと蹴りが速くなった後も、連続ドルフィンキックは進まないし、フリーのキックも小学生なみにヘタクソなままだ。

 

※※ 備考 ※※
『ひと掻きひと蹴りさえ速くなれれば、それで良い。余計な思考方法や、屁理屈はいいから、結果だけ教えてくれ』

そんな狭い着眼点で、物事を捉えるだけだから、20年間も発想の飛躍が起こらず、『一流になりそこねた二流選手』で終わってしまう。

 

この『挟み込み式 擬似ドルフィンキック』は、自分が急に出来るようになった新しいテクニックではなく、すでに持っていたテクニックの組み合わせを変えただけなのだ。

『持っている事』と、『使える事』は、次元がまったく違う。

 

自分の能力の限界は、その9割が自分自身の思い込みで決まっている。

生まれ持った素質の影響は1割程度でしかなく、発想力の差が(脳みその絞り方の差が)、自分の能力の活かし方を決め、結果に繋がっている。

 

単に『ひと掻きひと蹴りを速くする方法』を知るだけでは、所詮、私程度のテクニックレベルの二流選手にしか到達しない。

トップいる選手の多くは、平凡な素質に、非凡な発想(思考)を結びつけて、10年先のテクニックを身に付ける事で、その地位に上りつめている。

『高い素質でその地位にいる』と考えるのは、平凡な発想(思考)しか使おうとしない選手だ。

『体は元気でも、未熟な思考回路しか持っていない、より若い選手』の内に、自分の発想とは違った切り口や、その思考方法を知る事で、自分自身で新しいテクニックを身に付ける発想を養って、自分の才能を、体が若い内に開花させて欲しい。
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