平泳ぎ (11)

〜 トルネード泳法 5 〜

高橋大和
2008.10.15
一部加筆 : 2009.12.10

  

 

まず、プル/キック動作における手と足の力の入れ方だが、これは重心移動ベクトル化運動理論の第7章でも説明したものだが、「肘から先」「膝から下」は力を抜く。

プルの感覚は肘で捉える。キックの感覚は膝で捉える

 

胴体部分の押し上げるような力の入れ方は、伏し浮きの第5章図 5-6で説明したのでここでは、手と足の部分に的を絞って説明する。

 

図 11-1

 

「手先、足先は力を入れないのか?」

と思うだろうが、入れない。もちろん、「力を入れない」と思っていたって、腕と太ももに力を入れれば、勝手に力は入ってしまう。

それで良いのだ。

肘から先と膝下は、それぞれ腕と太ももから発生した力の惰性に従って素直に動いていく。それが普通なのだ。

 

例えば、手に持ったタオルをグルグル振り回す時、手首を回せば、自然とタオルも回る。

回っているタオルが顔にぶつかった時に痛いからといって、何もタオルに力が入っているわけではない。手首の力がタオルに伝達されているだけだ。

もし、タオルが棒だったら、タオルのようには調子よくグルグル回せない。

同様に「肘から先」「膝下」に力を入れればうまく力を伝える事が出来ず、むしろ力が発揮できない。

 

女性には分かりにくいかもしれないが、野球のピッチャーがボールを投げる時、「肘」を先行させて肘から先はその動きに付いていってボールが投げ出される。

肘から先にまで力を入れてしまえば、腕は棒状になって速い球は投げられない。

肘から先は力を抜いていないと、腕の振りに合わせたスナップが効かなくなってしまうからだ。

 

別の視点でみれば、ピッチャーの腕の振りは、肘がどのように振り出されていくかを見るわけで、ボールを握っている手先がどのような軌跡を描いているかはほとんど関係ない。

水泳も同様だ。

 

プルの力を発揮したければ肘の動きに視点を置く事が重要だ。手のひらは、肘の動きに追随した結果でしかない。

キックの力を発揮したければ、膝の動きに視点を置く事が重要だ。足先は、膝の動きに追随した結果でしかない。

 

プル動作を説明するのに、小難しい水泳本にはなんかこんなような

 

図 11-2

 

8の字を描いたような「手の平の軌跡」を示しているものがある(もう少し複雑な絵だけど)。

ちょっと分厚い水泳本を読んだ人は見たことがあるのではないだろうか?

こんなもん、選手にはまったく役に立たない。

 

立体的な軌跡を描く手のひらの動きを2次元の平面で表した無意味さだけでなく、ご丁寧に体が移動している事まで表している。

つまり、この図では、手を横に開き始めた位置よりも前方でプル動作が終わっている。

 

仮に肘の動きを表してるのだとしても、体が動いている時の線を示して何がイメージできるのか?

これはおそらく、泳いでいるビデオ映像の手の平をなぞったのだろう。

研究者が外で止まって見ていて、泳いでいる選手を捉えただけだから、こんな図を示してくるのだ。

研究者が「自分たちさえ分かれば良い」という、

「自分たちに課せられた使命は何か?選手達のための研究ではないのか?」

といった事を忘れた姿勢だから、こんな恥ずかしい図を示せるのだ。

 

もし図示するのなら、「選手の目から見える手の軌跡」を図示しなくては何の意味もない。

と、批判した所で言いたいのは、プルは「手のひら」ではなく「肘の動き」に意識を置き、キックは「足首」ではなく、「膝」に意識を置けという事だ。これを強く意識して欲しい

 

人間はどうしても器用な所を動かそうとしてしまう。

つい、足よりも器用に動かせる手に意識がいってしまい、手で泳ごうとしてしまう。

つい、自由に動く指や手首を使って泳ごうとしてしまう。

違う。

 

平泳ぎはプルよりもキックの動きに意識を向けなければならない。

推進力の3割しか発生させないプルなどよりも、7割のキックに意識を集中させなければならない。その上で、

プルの動作は、"意識的に"肘に意識を置くようにして行わなければ、良いプルはできない。

キックの動作は、"意識的に"膝に意識を置くようにして行わなければ、良いキックは打てない。

これを忘れないで泳がなければならない。

 

つい、手先、足先で泳いでしまいたくなるが、それではダメだ。

調子の悪い時ほど、つい無駄に手先足先に力が入ってしまう。それではダメだ。

 

図 11-1の体幹イメージを持った所で、次に、ミゾオチから横に翼が生えたイメージを作る。

 

図 11-3

 

この翼で水面を滑るように泳ぐ。

水面下に肘、肩、ミゾオチ、腰、膝が沈み込まないようにする。

出来るだけ、水面ギリギリで動作する。

特に、呼吸の動作後に水面下に落ち込んでしまわないようにして、水面を維持する。

 

古い時代の人はグライドを意識して、水中で波打つように体をうねらせたくなるが、水中ではなく、アメンボが水面を滑っているようなイメージで、体の各関節を水面に維持して動作する。

※※ 備考 ※※
現在、上下方向に無駄な動きが発生するグライドは使われていない。

伏し浮きさえできれば、何もしなくてもまっすぐ水に浮く事が出来るので、水の抵抗(揚力)を利用するグライドを使う必要性がまったくない。
※※※※※※※

 

「なぜ、ミゾオチに翼なのだ?」

と思うだろうが、それは、ミゾオチに浮心があるからだ。

伏し浮き姿勢第2章で説明したように、お腹を殴られて「うっ」となったような力のかけ方で重心を押し上げるようにして伏し浮き姿勢を作れるようになると、結果的にミゾオチ付近に浮く点(浮心)が出来る。

その浮心で渦を滑るようにして泳ぐのが新型フラット泳法の感覚だ。

 

「浮心で水面を滑るように泳ぐ感覚」を、体の内側から筋肉の使い方として捉えて模式化したのが、下図だ。

 

図 11-4

 

もちろん、これは私の感覚だ。

万人にしっくりくる模式図ではないかもしれないが、

「イメージを元に、自分の感覚を掴む(構築する)」

のが、あなた自身がやるべき仕事だ。その参考になれば良い。