ガンダム式 引継ぎスタート法 (6) 〜 ガンダム式 飛び出し法 〜 2008.02.01 |
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リレーの引継ぎスタートでは、 カタパルトから飛び出していくガンダムをイメージして蹴り出していけ。
【飛び出しテクニック】 引継ぎスタート時の蹴り出しに、深い屈伸動作は必要ない事が分かった。 「倒れ込みながら、タッチを待って飛び出す引継ぎ」 は、「勢い」を多少犠牲にしつつも、引継ぎのタイミングを優先したベターな引継ぎ方法である。 この"ベターな引継ぎ方"は、リレー経験の少ない選手が、より少ない練習時間でマスターできる最も良い方法だ。 しかし、競技レベルが上がれば、 「もっと高いテクニックを手に入れ、勝てるチャンスを広げたい」 と思うようになるものである。 第2章で説明したように、ベストな引継ぎ方法は、「引継ぎのタイミングも完璧」で、かつ、「勢いも最大になるように飛び出す」事である。 「倒れ込みながら、タッチを待って飛び出す引継ぎ方法」より、高いレベルの引継ぎをしようとした場合、つまり、 「もっと勢いを付けて飛び出すには、どうしたらよいか?」 をここでは、考えていく。 これまでにも説明してきたとおり、リレーの引継ぎでは、フラットレースのスタートのようにスタート音を聞いて動き始める必要がないため、より高い位置に姿勢を保って飛び出す 「位置エネルギーを利用した引継ぎスタート」 が可能だ。 (弾道スタート理論の第4章で説明したが、スタート台からの飛び出しにおいて、「2Mの位置に飛び上がって獲得する位置エネルギー」と、「はじめから2Mの位置にいて、そこから飛び出す位置エネルギー」では、まったく意味が違う。熱力学第一法則、又はエネルギー保存の法則を理解してほしい) 「勢い」を、深い屈伸運動を用いた脚力で得るのは、決して悪い事ではない。 自分にとって、深い屈伸運動が「飛び出しやすい」のなら深い屈伸運動で勢いを付ける事は良い事だ。個々人が持っている「感覚」も、重要な技術的要素のひとつだからだ。 しかし、リレーでしか使う事が出来ない「位置エネルギー」を無駄にするのは惜しい。 なぜなら、脚力は「自分が出すエネルギー」だが、引継ぎスタート時に存在する位置エネルギーは「自分の外から与えられるエネルギー」だからだ。 つまり、深い屈伸動作を使った"勢いUP"は、脚力を使い、その分の疲労を起こすが、元々あった位置エネルギーを利用しても疲労はしないため、スタートで出来たその分の余裕を、泳ぎに回す事が出来るのだ。 一言で言えば、 「より小さい力で、より効率よく、楽に飛び出していける」 という事だ。 ここで、ガンダムがカタパルトから飛び出していくシーンを思い出して欲しい。 「アムロ いきまーす」 のあの有名なシーンだ。
もしガンダムが膝を深く曲げていると、カタパルトで前に押し出された勢いが膝に吸収されて都合が悪いから、ガンダムは突っ立ったような状態でカタパルトに立ち、そのまま押し出されていくのである。 カタパルトで付けた勢いを生かすために、ガンダムはカタパルトにしゃがみ込んで飛び出していくのではなく、膝、腰に、"蹴り出しに必要な分の軽い遊び"はあるものの、突っ立ったような状態でカタパルトに乗って飛び出していくのである。 引き継ぎの飛び出しイメージは、ガンダムが飛び出していく時のように、膝を半伸ばしにした状態で飛び出すイメージなのだ。 すでに説明した「倒れ込んでタッチを待つ引継ぎ法」でも、この蹴り出しイメージは同じであるが、「より勢いを増す引継ぎ技術」を考えていく時も、ガンダムが飛び出していくイメージ内で改良を考え、引継ぎテクニックを磨いていくと良い。
図 6-1
上半身の動作は、「感覚的にマッチする範囲内で、出来るだけ勢いが付けられる」ように、個々人の好きなようにすれば良いので、腕の動作も、"引いた腕を単に前に"振り出すだけでも、"一回転させて"振り出していっても、どちらでも良い。 より反動が付くように、直立に近い姿勢から直感的に上半身を屈曲させて、上半身ごと振り上げていく事も、もちろん良い。 ただ、弾道スタート理論でもその大切さは述べたが、どのように反動を付けようとも、重心である腰に、ベクトル的にまっすぐ前に力が伝わるように振り出す事は重要だ。 これまで説明してきた"一番初歩的な引継ぎ"である図6-1左図の「倒れ込み式」でも、腰はなるだけまっすぐ前に移動していくような"イメージ"で倒れ込むのが良い。 現在の競泳界で見られる"最大限に勢いを付ける方法"は、図6-1右側の飛び出し方のように、片足を半歩引いた上体から助走を付けつつ、腕を振り出して飛び出す、又は、腕を一回転させて飛び出す方法だ。 両足ともスタート台の最後部まで引いて、スタート台上をチョコチョコっと小走りする選手もいるが、非常にタイミングを合わせずらく、"誰もが出来る技術"とは思えないため、ここでは推奨しない。 右図のように、体は直立に近い状態で構えて、泳いで来る選手を待つ。 突っ立った状態から引継ぎ動作に入る事によって、より大きな位置エネルギーを獲得しようというわけだ。 この突っ立った状態から、出来るだけベクトル的にまっすぐ前に飛び出していくには、ガンダムがカタパルトから飛び出していく軌跡(移動する腰の軌跡)に乗るようにスタート台上を動いていけばよいのだ。 ただし、勢いを付ければ付けるほど、「倒れ込みによるタッチのブレの吸収」が出来なくなる。 重心をまっすぐ前に移動させていくため、"倒れ込む回転動作"が出来なくなるためだ。 右図のように半歩の助走を付ける場合でも、多少の倒れ込みを使ってタッチを待つ時間を作る事は可能だが、「半歩の助走」や「腕の振り上げ」を利用して勢いをつければつけるほど、体は後方から前方へまっすぐ移動していくので、倒れ込むような回転動作をする事は難しくなる。 倒れ込む回転動作が出来なくなると、タッチを最後まで目で追う事も難しくなってくる。 つまり、勢いをつければそれだけ、「引継ぎ経験で鍛えた勘」に頼って飛び出しのタイミングを計らなければならないという事だ。 「経験」や「勘」といったものは、どうしても不確実な要素があるため、倒れ込みによる引継ぎ法よりも、リスクが伴う。 個人的な意見では、"勢いを最大限に付けた"ガンダム式引継ぎのような高度なテクニックが使える選手でも、余裕のある予選レースや、引継ぎで多少差を縮めても順位が入れ替わりそうにもないレースといった場合には、より安全な「倒れ込み」のテクニックを十分に使って引継ぎを行い、「僅差で予選落ちするかも」「僅差で負けるかも」といったような"ここ一番の大勝負"の攻めの時には、リスクを背負って"最大限に勢いを付けた"ガンダム式で引き継げば良いように思う。 (「倒れ込み式」でも蹴り出していくイメージは、やはり、ガンダム出撃のイメージである) また、技術的な部分ではないのだが、「運」を感じる事ができる程まで研ぎ澄ましたレースでは、「負ける気がしない」といったような 「勝てる直感」 を"強く"持てる時がある。こういった時の僅差のレースでは、いつもより冴えている勘を信じて、徹底的に攻めるレースをすべきである。 (もし、「運を感じる」程まで研ぎ澄ました"レース"や"感覚"を経験した事がないアスリートなら、その領域に到達するまで、是非とも現役を続行して欲しい。せっかく深く踏み込んだ道で、その真髄を経験する前に引退する事は、人生における"時間"で、非常に大きな損をする事になる) より守った「倒れ込み式」で引き継ぐのか、より攻めた「ガンダム式」で引き継ぐのかは、理屈で割り切れる事ではないので、レース経験を積んで会得していって欲しい。 引継ぎテクニックの最後に、実践レースで選手が忘れがちになってしまう注意点を指摘しておく。 倒れ込んで蹴り出すにしろ、ガンダムの出撃式に飛び出すにしても、引継ぎ動作の最後の瞬間、"ヨシ!"と思って、足首に力を"グッ"と入れてスタート台を蹴り出し始めたら、 「フライングしてしまったんじゃないか?」 といったような「結果」は考えずに、"その状態での最大限の力"を使って強く蹴り出す事を忘れてはならない。 フラットレースでもリレーでも同じだが、実践レースで、"頭を白く"してレースをしてしまっては、負ける可能性を広げる事になる。 「自分のレースを組み立てる冷静さ」を維持する意識を自分で"はっきり"持つ努力をする必要がある。 気持ちを入れ過ぎたにせよ、「なんとなく」という意識でスタート台に立ってしまうと、引き継いだ時に、 「あっ、早すぎた」「あっ、遅すぎた」 といったような事を、どうしても思考してしまいがちなのだが、遅すぎようが、早すぎて失格を取られていようが、自分の泳ぎには関係のない事なのだ。 「起きてしまった結果」を気にして泳いでも、その結果を変える事は不可能であり、変えられない事を気にして泳いでも悪い方へ転ぶだけの事で、良い事は何もない。 「起きてしまった結果」よりも、「その状態の最大限の力で強く蹴り出す事」や、踏み切り直後にやってくる「入水動作で注意する事」に意識を向けなければならない。 つまり、自分が良かれと思って踏み切ったタイミングを信じて、常に先の事を意識しながら、タッチの瞬間まで泳ぎきる事が大切だ。 結果を振り返るのは、タッチした後、レースが終わってからで良い事だ。
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