ガンダム式 引継ぎスタート法 (5)

〜 膝の屈曲角度の考察 〜

 

2008.02.01

  

 

リレーの引継ぎスタートではフラットスタートは違い、「勢い」を付ける事ができるため、深い膝の屈曲は必要ない

 

【膝の屈曲角の考察】

前項で

「膝の深い屈曲状態で倒れ込めば、もっと良いのではないか?」

という疑問が残った。そこで、ここでは、膝の屈曲角度について考察していく。

結論としては、リレーの引継ぎでは、フラットスタートとは違い、膝の深い屈曲は必要ない

なぜなら、「ちょん」と蹴り出す程度の浅い膝の曲げなら、すぐに伸び上がって飛び出していく事が可能であるのに対し、深い膝の曲げなら、蹴り出し動作に時間がかかり、引継ぎのタイミングを取りにくいからだ。

また、リレーの引継ぎでは、腕を回したり等で勢いを付けて飛び出せる事があるため、フラットレースのように低い位置にしゃがみ込んで構える必要がない。このため、「高い位置から飛び出す事が可能」という利点がある。

「なぜ、高い位置から飛び出す事に利点があるのか?」

については後でも指摘しているが、弾道スタート理論で述べたとおり、飛び上がって高さを稼ぐ方法とは違い、位置エネルギーが利用できるからだ。

(「弾道スタート理論(第7章)では、水面から122cm以上の高い位置から飛び出す事は、45度以上の入水角度になってしまい良くないと言っていたではないか」という勘違いをしないで欲しい。

フラットレースでは、せいぜい5m/s程度の蹴り出ししか行えないため、5m/sの飛び出しでは122cm以下で飛び出す必要があるが、リレーでは、手を回したりといった"勢い"を付けて飛び出せる分、飛び出し速度が速くなり、フラットレースのスタートよりも「許される飛び出しの高さ」が高くなる事に注意して欲しい。

仮に、多少高く飛び出した結果、入水角度が45度以上になったとしても、速く引き継いで縮めるタイム効果の方が大きく、差し引きプラスであれば良い)

この「高さの利点」を十分に利用するために、膝の深い屈曲を使って飛び出すのではなく、膝を出来るだけ伸ばした状態で、体を高い位置に保った状態から飛び出し動作を行う方がベターだ。

前項で推奨した「倒れ込みながらタッチを待つ方法」で、飛び出す勢いを増すために深く膝を曲げて倒れこんでいくと、ジャンプ動作で、膝が伸びきるまでに時間がかかってしまい、蹴り出しのタイミングを計りにくくなる。

つまり、「飛ぼう」と意識してから、実際にジャンプが完了するまでに時間がかかると、その事をも考慮に入れた動作が必要になり、その分、引継ぎのタイミングが合わせにくくなるのだ。

その上、膝を深く屈曲した状態で倒れ込む方は、「倒れ込むのに許される時間」が短くなる。

膝を伸ばしきるまでの時間が多く必要なため、「倒れ込めるのに許される角度」が浅くなるのはもちろんの事、膝を曲げたせいで「倒れ込む回転半径」が短くなってしまい、倒れこむ速度が速くなってしまうからだ。

「倒れ込む時間」で、泳いでくる選手のタッチのブレを吸収しているのに、その「吸収可能時間」を短くしてしまっては、引継ぎのうまくない選手にとってデメリットの方が大きくなってしまう。

つまり、膝を深く屈曲したまま倒れ込むと、飛び出すタイミングを計りにくい。

膝を深く屈曲するのなら"倒れ込む引継ぎ法"を用いるのではなく、引継ぎ経験を豊富に積んで、どのような状態から飛び出しても、うまいタイミングで引き継げるようになってから、感覚でタイミングを取って、スタート台の後方に置いた重心を一気に前方へ動かし飛び出していく方が良い。

「"ちょん"と蹴るだけでは、スタートがろくに飛べないのではないか」

という不安は、弾道スタート理論から否定される。

膝の屈曲が少ない状態と言う事は、それだけ高い位置に腰があるという事だ。

高い位置にある腰はそれだけ飛距離を生む。その飛距離で十分、メリットは確保できる。

「長ったらしい説明で、ぜんぜんわからん」

という人は、陸上競技の走り幅跳びを思い出してほしい

助走してきた選手が、踏み切る瞬間に膝を深く曲げて屈伸動作を入れているだろうか?

走ってきた走法のそのまま、踏み切って飛び出していっている。

理由は、踏み切りの時には「助走」という勢いがすでにあるから、踏み切るタイミングで屈伸動作を入れてしまっては、逆に助走の勢いが吸収されて死んでしまうためだ。

膝の"深い屈曲状態"からジャンプする事が利点となるのは、勢いを持たない静止状態から動作を始めた時だけなのだ。

静止状態からのジャンプでは、「助走の勢い」がない分を、膝の屈伸動作で補っている。

バレーボールの選手でも、ブロックを飛ぶ時には深く屈伸動作を行うが、助走のあるスパイクなら、ブロックの時のような深い屈伸動作は行わないのと同じだ。

静止状態からのジャンプは、競泳ではスタート音を聞いてから動き出すフラットレース時のスタートに相当する。

走り幅跳びの

「助走の勢い」

が、競泳の場合に何に相当するかと言うと、

「フラットレースでは使えない、リレーの引継ぎ時だけに使える勢い」

なのだ。

リレーの引継ぎスタート時には、手を回したり、前に倒れ込んだりして、踏み切り動作の前に、走り幅跳びの助走に相当する勢いをつけている。

だから、リレーの引継ぎスタートの時には、フラットレースの時のような膝の深い屈曲は必要なく、

「膝を軽く曲げスタート台に突っ立ったような状態で前に倒れ込んで、"ちょん"とスタート台を蹴る」

だけで十分なスタートが出来るのである。

これは言葉で説明するよりも、実際にやってみればよく分かる事だ。

膝の屈曲の少ない状態で倒れ込んで、"ちょん"と飛び出すと、フラットレースでは感じる事のできない勢いで入水していく事が出来る。

「ジュボッ」

という、すごい感覚だ。フラットレースのスタートでは感じた事のない快感を私は感じた。

もちろん、スタート台に足の指をしっかりかけて倒れ込むには、スタート台を足で押し続ける力が必要なため、横から見た映像では、微妙に膝を曲げながら倒れ込んでいくのだが、こんな事は理屈で説明する必要もなく、直感的にそうせざるを得なくなる事なので、細かい膝の動きについては述べない。

大切な事は、外から見た時の実際の動きではない。

飛ぶのは自分自身なので、"自分の内側から見た動き"のイメージが大切なのである。

次項では、膝の屈曲を少なくした状態で"腰の位置の高さ"を利用した引継ぎの蹴り出しイメージについて述べる。