ガンダム式 引継ぎスタート法 (4) 〜 倒れ込み式 引き継ぎタイミング法 〜
2008.02.01 |
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リレーの引継ぎスタートでは、 前に倒れ込みながらタッチのタイミングを取る のである。
【タッチのブレに対応するテクニック】 泳いで来る選手のタッチが詰まったり、流れたりする事は良くある事である。 タッチをするのはスタートを飛ぶ側の人間ではないので、ボールをキャッチする感覚だけで飛んでいては、泳いできた選手のタッチのブレに対応できない。 引継ぎが遅れる分にはまだ良いが、早く飛びすぎてフライングを取られて失格してしまう事だけは、避けなければならない。 かといって、引継ぎを守りすぎては、フラットレースより0.7秒も短縮できるせっかくのチャンスを潰す事になる。 通常、選手レベルのタッチなら、タッチが合わなくてブレたとしても0.1秒程度で、大きくブレても0.2秒に達する事は経験上まずないと思われる。 0.1秒程度のブレなら十分対応できるテクニックがある。私は7回目の国体最終年でやっと気付いたテクニックである。 前に倒れ込みながらタッチを待って引継ぐ のである。 「倒れ込む」という動作は、ルールで静止する事が決められているフラットスタートでは絶対に使う事が許されないテクニックで、リレーでしか使えないテクニックだが、非常に有効で効果的なテクニックだ。
図 4-1
倒れ込み動作で重要なのは下半身の動きであるため、上半身の動作は示していない。 重心より上の上半身(おおよそヘソより上)は、腕を回転させたり、腕と上半身を振り上げたりして、勢いを付ける動作を行うため、飛びやすいように直感的に動けばよい。 まず、ボールのキャッチと同じ感覚で、泳いできた選手のタッチを先読みして、前に倒れ込み始めるのである。 そして、泳いできた選手のタッチを倒れ込む動作で待つのである。 泳いできた選手のタッチのブレは、倒れ込む時間(角度)で吸収するのである。 倒れ込む時間(角度)で、蹴り出すタイミングを0.1程度調整できるので、引継ぎを守ってしまって倒れ込み始めるのが遅れたとしても、その遅れすらも吸収する事が可能だ。 「泳いで来た選手のタッチのブレ」と「自分の引継ぎタイミングのブレ」の2つのブレを、1つの動作でいっぺんに吸収してしまう所が、この「倒れ込みながら蹴り出すタイミングを計る方法」の良い所だ。 しかも、「倒れ込む事」で蹴り出しのタイミングを計る方法は簡単であり、初心者でもすぐに出来るテクニックである事も、大きなメリットである。 もちろん、「踏み切りに力が最も入る"倒れ込み角度"」で飛び出せる事がベストであり、ベストな角度で蹴り出せるように「倒れ込み始める」タイミングを練習と経験で習得する必要があるのだが、 「力が最も入る角度で飛び出す事」 よりも、 「タッチしてきた選手の指がタッチ板に着いた瞬間に飛び出して行く事」 の方が重要だ。 スタート台を蹴るタイミングを倒れ込みながら計る方法なら、本番でビビッて多少守った引継ぎになったとしても、0.2秒台前半で引き継いでいく事が十分可能だ。 ここ一番の大勝負などで引継ぎを攻めれば、より安全圏内を確保しつつ、0.1秒台前半で引き継ぐ事も十分可能だ。 もう少し細かい点についても言えば、フラットレースのスタート動作とは異なり、スタート台に突っ立ったような姿勢で立ち、出来る範囲で腰を高い位置に置いたまま、そのまま前に倒れ込んでいく。 (上半身は、自分の好みで反動を付ける動作を行ってよいが、下半身は出来るだけそのままにして、前に倒れ込んでいく) そしてボールをキャッチする感覚で、泳いできた選手の指がタッチ板に付いた瞬間を先読みしつつ(実際には、倒れ込みながら、泳いできた選手のタッチを自分の目で追う事が出来る)、"ちょん"と真ん前に飛ぶのである。 「ちょん」 と飛ぶのである。 スタート台にかけた足の指を支点にして、棒状の下半身を半径とした半円を描きながら、そのまま前に倒れ込んでいく。 そして、タッチしてきた選手の指がタッチ板に付いたら "ちょん" と、スタート台を足の指で蹴るのである。 "ベストな倒れ込み角度"に、まだ達していなくても、"ちょん"と蹴ってしまうのである。 半円状に倒れ込んできた状態で"ちょん"と蹴ると、倒れ込んだ角度に依存することなく、腰が真ん前に飛び出すので、それで良いのである。 (もちろん、あまりに倒れこみ過ぎてしまっては、絶えられなくなってプールに落っこちてしまうが) ここで弾道スタート理論をよく思い出して欲しい。 "ちょん"とスタート台を蹴るだけで十分である事の意味は、弾道スタート理論内にある。 「ベストな倒れ込み角度」に達していない早い状態で蹴り出したとしても、その分、腰は高い位置にあり、飛距離を稼ぐ事が可能だからだ。 「蹴り出しに一番力の入るベストな角度」より早く飛び出して損した「蹴り出しの勢い」は、腰の位置の高さ(水面からの飛び出しの高さ)から来る飛距離でカバーでき、 「ベストな蹴り出し角度より早く飛び出す事のデメリット」 は、 「ベストな蹴り出し角度に倒れ込めるまで待った分、蹴り出しが遅れた時間のデメリット」 より小さいのだ。 つまり、倒れ込みながら引き継ぐ方法なら、泳いできた選手のタッチが詰まって早まっても、流れて遅れても0.1〜0.2秒程度のブレはなんなく吸収し、吸収したにもかかわらず、多少の飛距離の差はあれど、短い"引継ぎTIME"で、真ん前に飛び出していけるのである。 リレーの引継ぎスタートは、フラットレースの時のようにスタート音に反応して飛び出す必要はないため、蹴り出し動作の前に手を回すなどの反動を付けたりして、より大きな勢いを付けて飛び出す事が可能だ。 従って、引継ぎのタイミングさえ完璧に合わせる事が出来るのなら、ここで推奨している「倒れ込む引継ぎスタート法」を使わず、膝を深く屈曲した状態から強く踏み出して前方にジャンプして引き継いでいくのは悪い戦略ではない。 (膝を深く屈曲してジャンプ動作をしたとしても、飛び出しに角度を付ける事は、弾道スタート理論でしつこく否定しているので、そちらを読んで理解してほしい) リレー経験が豊富な選手なら、その独自のテクニックを磨いていく事は正しい。 しかし、リレーの引継ぎで一番難しく重要な事は、引継ぎのタイミングを計る事だ。 勢いを最大限に付けて飛び出そうとすれば、どうしてもスタート台の後ろの方から引継ぎ動作を開始するので、泳いで向かって来る選手のタッチ動作が見えずらくなり、タッチ動作の先読みがしにくくなる。 それでも、引継ぎ経験の豊富な選手なら、スタート台の最後方から膝の屈伸動作を使い十分に勢いを付けてから、かつ、完璧な引継ぎTIMEで引き継いでいける事だろう。 しかし、それを引き継ぎ経験の浅い選手が習得するには、それなりの時間がかかる。 その点、"倒れ込みながら蹴り出しのタイミングを待つ"方法なら、倒れ込みながら、タッチしてくる選手の指を最後まで自分の目で追いかける事ができる。 しかも、倒れ込む動作の目線の先に、泳いで来た選手のタッチも動いていくので、無理して意識しなくても、タッチの動きを自分の目で追いかける事が出きる。 ボールをキャッチする時、目を瞑った状態で構えたグローブにボールを投げてもらい、ボールのぶつかった感触だけでキャッチする事は非常に難しい(実際にやってみると分かるが、凡人にはほとんど不可能に近い)。 なぜなら、人間はボールをキャッチする時、ボールの軌跡を先読みした情報だけでキャッチしているわけではなく、飛んできたボールの軌跡を目で追いかけ、脳で補正しながら、キャッチしているからだ。 「移動する物体の軌跡を目で追いかける事が出来る」 というのは、勘だけに頼るよりもずっと精度が高く、"より確実"なものとなるのだ。 "倒れ込みながら蹴り出しのタイミングを待つ"方法における 「蹴り出しの瞬間の最後の最後まで、タッチを目で追い続ける事が出来る」 という部分は、経験の浅い選手にとっては、非常に好都合なのだ。 引継ぎのタイミングを自分なりに磨いていくにしても、ひとつの 「良いと言われるベターな引き継ぎ方」 が提示され、それに対して自分なりのアレンジを加えていかなければ、とても難しい作業となってしまう。 リレーの引継ぎ練習時間をあまり割く事のない練習環境で、より手っ取り早く引継ぎスタートのメリットを引き出すためには、 「倒れ込みながら蹴り出しのタイミングを待つ方法」 が、より簡単で有効な方法なのだ。 しかも、そこにはリアクションタイム分の0.7秒もの大きな時間が、「稼ぐ事が可能な時間」として存在している。 「膝を深く屈曲して思いっ切りジャンプする事に気を取られて、引継ぎTIMEが遅くなったり、フライングするリスク」 を採るよりも、 「リアクションタイム分の0.7秒を稼ぐ事に重点を置いて、蹴り出し力が多少弱くなるリスク」 を採った方が良いはずなのだ。 「膝の深い屈曲状態で倒れ込めば、もっと良いじゃないか」 と思うかもしれないが、それは実際にやってみてみれば、感覚的によろしくない事が分かる。 この「膝の屈曲角度」の考察については、次項で述べる。
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