クイックターン (4) 〜 膝をまっすぐ移動させる 〜 2010.12.10 |
||||
■ ゲインズ スピンターン 『まっすぐ縦に回転しちゃったら、真上を向いた状態で壁に着いちゃうじゃん・・・それじゃー、右左クロスターンにならないじゃん・・・・水中で180度も反転するの?』 という疑問が湧くだろうが、今現在使われているターンで、完璧な真上は向かない。 (真上に近いけど、背泳ぎのクィックターンのような、真上を向いている感覚はない)
この件は、後述するので、『どうやって真上を向かないようにするのか?』については、今は述べない。
『真上を向いた姿勢から壁を蹴り、180度、体を反転させる』 という話でピンと来た人は、きっと私と同年代か、やや上の20世紀少年たちだ。
♪ テレテテ テレテレ テレテテ テレ ドン! ♪ と言えば、人間が空を飛んで来る衝撃的な開会式で始まった1984年のロサンゼルスオリンピックで、 今現在でもオリンピックと言えば、この時の曲が多く使われる事からしても、 『多くの人々の記憶の中に強く残るこの時のような、新しい時代を感じさせたワクワクするオリンピックは、この大会以来、ない』 と言っても過言ではない。
現在、多くの選手たちが当たり前に使っているクラウチング式のスタートは、 1984年ロス五輪 男子100M自由形金メダリストのローディ(ラウディ)・ゲインズ選手が最初で、当時の日本では、 『ゲインズ スタート』 と呼ばれていた。 ※※ 備考 ※※ 平泳ぎの潜水泳法が禁止される発端になった1956年メルボルン五輪 200M平泳ぎ金メダリストの古川勝さんに始まり、日本人は潜水を得意としていた事もあり、バタ、バックにしても、潜水する選手は、当時、世界で置いてけボリを食っていた日本人くらいで、背泳ぎのバサロスタートも1984年当時は日本人くらいしか使っていなかった。 しかし、1988年ソウル五輪100M背泳ぎで、バサロスタート(潜水スタート)を使う鈴木大地さんが金メダルと取ってから、『潜水は疲れて遅いはず』というそれまでの世界の見方が変わった。 ちなみに、バサロスタートの由来は、ジェシー・バサロさん(アメリカ)が1970年代に考案して使っていた所から来ていて、日本人である鈴木大地さんが金メダルを取った事で、10Mに制限(現在は15M制限に緩和)される事になった。 スポーツ界にも『強すぎる日本』を嫌う傾向があり、バレーボール、スキージャンプ、ノルディック複合などの競技でも『強すぎる日本人』を押さえ込もうとするルール変更がたびたび行われて来たが、『それでも勝てるよ』というのが、現役選手の気概の見せ所だ。
そのゲインズさんが使ったターンが、これまた 『ゲインズ スピンターン』 と呼ばれたもので、まさしく 『逆さま姿勢から壁を蹴り出し、体を180度ヒネリながら浮上して来るターン』 だった。
ゲインズさん本人のHP映像
※※ 備考 ※※ 1991年当時の100M自由形日本記録(マスターズ日本記録じゃありません。現役選手の日本記録)が51.37の時代に、 30歳を過ぎたおっさんがヒョッコリ泳いで、51.50のマスターズ日本記録を樹立しちゃうわけですから、そのスーパースターぶりが分かると思います。
『すでに才能十分の世界記録保持者であったにも関わらず、独自のテクニックを、まだ、編み出そうとする姿勢』 (つまり、泳ぎの見本もなく、もう限界と思われがちな世界一速い人が『まだ追求できるはず』と考えているのに、見本となる選手がいてテクニック追求にまだまだ余裕のある遅い人の方は『自分はもう限界』と考える矛盾)
『グラブスタートをやめ、多くの選手がクラウチングスタートを使うようになったのは、ゲインズさんから遅れる事、実に10年以上経った1990年代後半という現実』 (つまり、凡人の思考が追い付くのに10年以上)
『2008年にスターティングブロックが許可される24年も前に、クラウチングスタートを使った』 (つまり、『後ろ足が滑って遅いはず』という固定概念を疑う非凡な思考)
といった事からも、『自分には才能がない』という思考は、『凡人が普通に使う、単なるいい訳』でしかない事が分かると思います。
『自分に才能がないから、速くなれない』のではなく、『使っている思考が平凡』で、平凡な戦略を使うから、結果的に平凡で終わっているに過ぎない。 赤ちゃんを見て分かるように、『思考』のほとんどは、生まれた後の後天的なものであって、生まれ持った素質ではない。
■ 膝をまっすぐ移動させる 『壁を蹴った後、体を180度ひねりながら浮上するから、スピンターンだ。でも、俺がやると遅くなるだけで、何が速いのかぜんぜん分からん』 と、私はこれまでずっと思ってきた。
しかし今、あらためて考え直してみると、スピンとは、『ターンのクイックな回転』の事を言っていて、『壁を蹴った後の体のひねり』を言っているのではないと思われる。 (まぁ、『ゲインズスピンターン』のネーミングは、和製語のような気もするけど・・・)
なぜなら、水中で体を180度ひねる事で、加速する事はない。 理論上、むしろ確実に遅くなるし、実際、ゲインズスピンターンをマネても、壁を蹴った直後で泳速が速いだけに、ヒネリによって水が体に強く引っかかって、減速してしまう。 (『全力でクロールを泳いでいる最中に、背泳ぎの姿勢に反転しても、スピードは落ちるだけ』という事をイメージすれば分かりやすい)
『船のスクリューは、同じ方向に高速で回転を続けるから進む』だけで、 『壁を蹴ったスピードよりも遅いスピードで回転、しかも半回転で終わってしまう回転』など、単なる水流の乱れでしかなく、 『水流の乱れは、すなわち抵抗』でしかない。 (そもそも、ひねって速くなるなら、グルグル回転しながら泳げば速いはずだが、すげー遅い)
出来るだけ失速を押さえるには、ドルフィンキックを使って長く潜り、失速しないようにゆっくりと体をヒネっていく必要がある。 (ドルフィンキックで失速を押さえているだけで、ひねりで加速するわけではない。参考までに示しておくが、『潜る場合にサイドキックを使うメリット』は、平泳ぎのターンを参照)
『では、いったい何が速くて、スピンターンなのか?』 そこを考察してみた。
ゲインズスピンターンが登場した1984年以前は、 『膝を水上に持ち上げる回転』 を行っていたため、スピンターンの『真上を向く所だけマネ』しても、前転速度が上がる事はなく、 『壁を蹴った後に、体を180度ひねる事によって減速してしまう影響』だけが出て、遅い。
ところが、ゲインズスピンターンの場合、 『膝を水上に出さず、水面で膝をまっすぐ移動させる』 ため、前章で説明したとおり、回転速度が上がる。
つまり、壁を蹴った後に差があるのではなく、ターンの回転速度(スピン速度)の圧倒的な差が、ターンの差となっていたはずだ。
『うそくせー!信じられん』 と思う人は、 『昔、ターンの時、足でバシャーっと水を立てるのがかっこいい様な気がしてやっていた。 そのせいで、レース時のタイム計測役員や、練習中にプール際でタイムを計っているコーチが、足を後ろにサッと引いて、立ち上る水滴を避けていた』 事を思い出すと良い。
※※ 備考 ※※ は、昔の背泳ぎのターンの影響も多少あったのではないかと思われる。
この頃の背泳ぎのターンは、 【1】 壁に手を着いてターンをしなければならない というルールのせいで、真上を向いたまま壁に手を着いて回っていたが、これもやはり、 【1】 横回りする人 とがいて、【2】の方法で背中を見せないように回転しようとすると、どうしても、 『エビ反る勢いで伸ばした足をバシャーンと回す』 しかなかった。
または、実際にプールに行って、ターンが遅い人を水中から観察すると、 『逆さまのまま、横回りをしようとして腰をクネクネとこねくり回し、太ももをモッサリと大回転させて、まるで捻じれた北斗七星のような姿勢』 を、はっきり見る事が出来る。
遅い人はこの姿勢で時間を食っている
つまり、『回転後、体がどっちの方向を向いているのか?』が重要なのではなく、 『お腹を回転軸にして、下半身を回転させるのか?膝を回転軸にして、膝から下だけを引くのか?』の違いが重要で、 『回った後の体の向き』を真似ても、まったく意味がない。遅い!
実際、1984年以前と、以後の選手のターンにはテクニック的な世代差が見られ、 『自由形が専門種目ではないけど、自由形もそこそこ速い』 という選手のターンを見比べてみると、 『1984年頃すでにそこそこ成長していて、泳ぎが固まっていた世代には、遅い右右ターンを使う選手が結構いる』 が、 『1984年のロス五輪を知らない若い世代では、専門外の選手でも、速い右左クロスターンを使っている事が多い』 (『自由形が専門』の速い選手は、専門種目であるが故に、さっさと、右左クロスターンに切り替えて使っているためだと思われるが、明確な世代差は見られない)
『体の向き』は、回り方の違いによる『結果』でしかなく、プロセスと結果を逆に捉えてはいけない。
|
||||
|
||||
|
||||