中級者のための平泳ぎ (2)

〜 プル動作 (1) プルの動作感覚 〜

2009.12.01

  

 

■ プルの動作方法

【1】
平泳ぎのプルは、肘を軽く緩ませた状態のまま、横に開いて、閉じるだけで良い。肘から先を水面付近に維持した状態で、横に開いて、閉じるだけで良い

事は、『初心者のための平泳ぎ』で、すでに説明した。

肘はアゴより前で動作させ、アゴより後ろに引っ張らない。

プル動作は、(もちろん、呼吸動作としても必要だが、)キックのタイミングを取るために、水を引っ掛けるだけの動作であり、『プルで(手で)進もう』などという意識は、(少なくとも中級者レベルでは)必要ない。

『肘を曲げて』といった、水を抱き込む動作はなく軽く緩ませた肘を開いて、閉じるだけで良い。

 

 

【2】
肘を水面に維持したまま(深く沈めないで)腕を動かし、『開いて、閉じる動作』と『呼吸動作』のタイミングを合わせる

【1】と【2】の2要素がうまく融合すると、胸(上半身)が肘の位置へスライド移動する。

 

 

【3】
リカバリー動作は必要ない

意識的に手を前方に戻す必要はない。呼吸後に胸(上半身)が後方にバックする動きで自然と手(腕)が伸びる。

『伸びる』というより、肩が後方に下がるので、肘が勝手に閉じてくる。

 

 

■ プルの動作感覚

「平泳ぎのプルっちゅーのはな、開いて(キャッチで)水を掴んで、その掴んだ水を肘を立てて胸の下にグィーっと抱き込んだ勢いで加速した後、手を前に戻すんだよ。逆ハート型を描いて掻くっちゅーやつよ」

というのは、競泳平泳ぎ(上級者向け)の所ですでに解説しているが、すでに廃れたテクニックであり、現在は主流ではない。

(腕を内転させ、肘から先を水中に折り込む『ハイエルボー』というテクニックは、もう、使われていない)

2008年北京五輪金メダリスト北島康介選手の泳ぎを見ても、プルは水面で横に開いて閉じるだけだ。

 

 

 

『開いて、閉じる』というプルの動きを、もう少し正確に観察してみると、

『水面で、肘(手の平)を開いて、閉じている』

状態だ。

 

 

しかし、『開いて、閉じる』という感覚は、『肘より先の部分』や『手の平』に意識を置いた時の感覚だ。

 

もし、自分の意識を『腕の付け根(肩)』に置くと、円を描くようにして『腕をグルグルと回転させている感覚』になる。

 

少し前に流行った『ビリーズ・ブートキャンプ』の、『ブンブン』と言って、『前に伸ばした腕』を付け根からグルグル回転させる、あの動作感覚に良く似ている。

 

 

下図は、分かりにくいかもしれないが、泳ぎを真正面から見た時の、『顔をつけた状態』と『呼吸をした状態』の様子を表している。

 

 

『手の平』や『肘』に意識を置いて、その感覚を捉えると、手の平や肘は、水面を真横に開いて閉じているだけの感覚だ(左図)。

 

しかし、腕の付け根(肩)に意識を置いて、その感覚を捉えると、肘を軽く緩ませた状態で腕をがグルっと回転している感覚になる(右図)。

 

『同じひとつの動作』でも、意識を置く場所によって『違った感覚』として捉えられる事になる。

なぜなら、手(手の平や肘先)にとっては、2次元方向に動いているだけの感覚だが、腕の付け根には、『左右に開く手の感覚』に加えて、『呼吸動作のために上半身が上下動する動きの感覚』までが加わって、『腕をグルグル回す』という3次元的な感覚を感じる事になるからだ。

 

これは、指導を受ける時、とても注意が必要である事を意味している。

 

なぜなら、ある指導者は

「平泳ぎの手は、横に開いて、閉じます」

という指導をする。

この指導者は、『人間の神経がたくさん集まり、感覚として得やすい手の先っぽ』に注目した時の説明をしている。

 

ところが、別の指導者は、腕(肩)の3次元的な感覚を説明しようとして

「平泳ぎの手は、肘を軽く曲げた状態で、円を描くようにグルグル回します」

と説明する事になるからだ。

 

『どこの感覚にスポットを当てた説明をするのか』によって、まったく違う動作の説明をしているかのような錯覚に陥る。

 

このように注意が必要だが、初心者や中級者に小難しい理屈は必要ない。

昔の

『開いて、肘を立て、胸の下に抱き込んで、前に戻す』

というハイエルボーテクニックを使った動作よりも、今の

『開いて、閉じる』

という動作の方が、シンプルで簡単なはずであり、『腕を無理に捻じり込むハイエルボー動作』のイメージや動作は、もう必要ない。