中級者のための平泳ぎ (1)

〜 基本動作の方向性 〜

2009.12.01

  

 

■ 平泳ぎの泳ぎ方

【0】
プル/キック動作時も、出来るだけ伏し浮き姿勢を維持するようにして(水面をスライドするようにして)動作する

 

 

【1】
プルで水を引っ掛けて、胸(上半身)を肘の位置にスライド移動させる

 

【2】
スライド移動に合わせて呼吸をする

 

【3】
(キックの引き付け動作とタイミングを合わせて)後方にバックするようにして伏し浮き姿勢に戻る

 

【4】
かかとを後ろにまっすぐ一気に押し出してキックする

 

【5】
伏し浮き姿勢(ストリームライン)に戻る

 

 

 

■ 近年、泳ぎのベースが大きく変わった

現在、初心者や中級者が、平泳ぎの情報を得ようとすると、

『うねるように泳ぐ』だの、『フラットに泳ぐ』だの
『プルは、肘を立ててハイエルボー』だの、『肘は立てない』だの
『キックは、膝先を回転させて蹴る』だの、『直線的に後ろに押す』だの

様々な真逆の説が耳に入り、何が本当で、どれを採用すれば良いのか非常に混乱する。

 

これは、2000年頃を境に、競泳4種目の泳ぎ方が大きく変化し始めたせいで、それまでの古い常識と、最近の新しい常識が、現在、入り混じって世間に流れているせいだ。

前者が、長年信じられてきた古い常識で、後者が現在主流の常識だ。

 

『競泳の常識』が、大きく覆った現象の裏には、

旧型イメージ : モーターボート
新型イメージ : 水車式の蒸気船

という、4種目に共通する『推進方法の変更』がある。

 

水車式の船(外輪船)

 

私が現役選手当時の1980年代には、泳ぎのテクニックを、よく、モーターボートに例えていて、

『スクリューが発生させる勢い』と『プルやキックがフィニッシュ動作で発生させる勢い』

を関連付けて考えていた(ここでは、便宜的に『間接推進方式』と呼ぶ事にする)。

 

しかし、現在の泳ぎは、4泳法とも伏し浮きの姿勢を維持したまま『水車で水を押しながら直接進むような泳ぎ』となっており(ここでは、便宜的に『直接推進方式』と呼ぶ事にする)、1980年代には良く使われた『フィニッシュ!』という言葉も死語となっている。

 

『モーターボートの方が速くて良さそうな気がするのに、現在は採用されていない』

のは、おそらく、モーターボートのような高速回転するスクリューを人間が持っていないため、水車式のような泳ぎ方の方が、低能力エンジンしか持たない人間にとって理にかなった泳ぎのためであると思われる。

 

と、いったような小難しい話は端折(はしょ)って、ザックリ表現すると、

『うねるようにして、前に前に突っ込んでいく泳ぎ』

は、現在、主流ではない。

 

 

現在は、伏し浮きの姿勢を崩さないようにして、水面を滑るようにして直線的に泳いでおり、『前に、前に』ではなく、むしろ

『後ろへ、後ろへと、水を押す』

泳ぎとなっている。

 

意識は、旧式のように、頭や手の先にあるのではなく、胸の辺り(浮心)にあって、浮心の位置を出来るだけ一定に保つような泳ぎ方をしている。

 

平泳ぎの感覚としては、胴体がゆりかごのような動作をしている感覚だ。
(呼吸後、キックの後方蹴り出しのタイミングと合わせるようにして、後方にややバックして、元の位置に戻るような感覚で泳いでいる)

 

 

これらの変化を一言で表現するとすれば、

『前へ、前へ、突っ込むような動きや感覚は、まったくない』
『後ろへ押し伸びる』

という事だ。

 

今と昔では、このような基本動作の違いがある事を踏まえて、以後、読んで欲しい。

 

また、当然の事ながら、20世紀までの古い方のテクニックで泳いでも、初心者や中級者にとっては、それなりに速く泳げる。

しかし、21世紀に入ってからの大幅な記録の伸びが世界記録だけに止まらず、少子化で子供の選手の数が減っている中で各全国大会の標準タイムまでもが大幅に伸びている事からしても、現在主流のテクニックの方が、トップ選手以外にとっても効果的なテクニックである事は明白だ。

 

しかも、選手コースに入ったばかりのような子供ですら、今風のテクニックを使って泳いでおり、

『初心者だから、最新のテクニックは難しくて使えない』

という事もあり得ない。

 

初心者には、『古い』も『新しい』もないため、最初に取り組んでなじんだテクニックが『使いやすい、簡単なテクニック』となるので、わざわざ古いテクニックを思い出して使う必要性はない。