初心者の平泳ぎ練習 (4)

〜 ウィップキックの推奨理由 〜

2009.12.01

  

 

初心者平泳ぎのキックが『あおり足(あるいは挟み足)』になるのは、

『足を回転させるイメージ』

の悪影響から来ている。

 

初心者が、『足を回転させよう』とした時、

『足の付け根から、足全部を回転させよう』

としていて(というイメージを持っているがために)、そのために『あおり足』になってしまうのだ。

 

確かに、1990年代までの競泳平泳ぎのキックは、『膝から先』を回転させ、左右の足を挟み込む力で加速していた。

しかし、の平泳ぎの選手が使っていた『回転挟み込み式キック』は、『膝から先だけ』を回転させていたのであって、足全部を回転させていたわけではない。

 

『膝から先』に、『膝』は含まれていない。

スネが回っているだけで、膝は、まったく回っていない。

 

つまり、初心者は、

『かかと(膝から先)を回転させる』

という事を

『足全体を回転させる』

と間違って捉えているのだ。

 

 

上図は、美的センスがまったくない私が模式的に書いた図なので、絵の正確性が少し欠けているかもしれないが、1990年代までの古い競泳選手が、『回して蹴る』と言っていたのは、

『かかと(膝から先の部分)を、回転させる』

という事であって、膝や太ももは、引きつけた位置から内側に向かって絞られていくだけで、回転はしていない(右図)。

 

一方、初心者は、

『キックは回す』というイメージ

から

『足を回転させる』と連想

し、実際に、足の付け根や膝を回転させようとする(左図)。

 

そのため、膝(股)を外側に向かって広げていき、まだキック動作の中盤であるにもかかわらず、まるで開脚をしているかのように足は伸びきり、股をオッピロげる事になってしまう。

こんなキック動作の中に、『まともな平泳ぎのキック』の動作が入る余地はまったくないため、初心者は結果的に、あおり足を使わざるを得なくなってしまっている。

 

初心者のあおり足キックを、もう少し分かりやすいイメージで示すと、

『お風呂の洗い場に立って、浴槽のお湯に、片足のつま先を突っ込んで、グルグルかき回す要領』

で、あおり足を使っている。

しかし、これは、クロールのキックの時に使うイメージだ。

 

その点、2009年現在の競泳選手が使っている

『単に足を前後させるだけの2ステップキック(ウィップキック)』

には、回転させるイメージが入り込む余地はなく、初心者がイメージするキックとして、最適だ。

※※ 備考 ※※
「北島康介選手の水中映像を見ると、膝から先がちゃんと回転しているじゃないか!」

という疑問には、上級者の平泳ぎで、すでに説明しているので、そちらを参考にしてください。

頭の中にあるイメージと、水の抵抗がかかる実際の動きでは、ズレがあり、北島康介選手ですら、ズレるものです。

『目で見た時に見える特徴的な動き』は、『何かの動作の結果、そういう動きとなって現れているだけ』であるため、特徴的な動きを真似しても、泳ぎはまったく真似できません。

トップ選手の泳ぎを真似るには、トップ選手の頭の中にあるイメージを真似る必要があるので、ビデオで研究する時には注意が必要です。
※※※※※※※

 

『ウィップキックは、初心者には難しすぎる。だから、昔の回転挟み込み式キックから練習すべきだ』

なんて事はない

 

旧式の『回転挟み込み式キック』が体に染み付いてしまっている1990年代までの選手には、ウィップキックは難しく感じる事はあるが、初心者には、単に足を前後させるだけで、回転させるイメージがないウィップキックの方がすんなり入る。

 

また、『回転挟み込み式キック』は非常に膝に負担がかかり、膝を痛めやすいが、ウィップキックは屈伸運動に近い動きなので、膝の負担も少なく膝を痛めにくいという大きなメリットもあり、怪我の面だけからいっても、『回転挟み込み式キック』は採用すべきではない。

 

『回転挟み込み式キック』には、これだけの悪影響があるにも関わらず、今なお、平泳ぎのキックとして語られる事が多く、『平泳ぎのキックは、足を回す』というイメージが根深く定着しているのは、やはり、

「平泳ぎのキックは、膝から先をグルーンと回して、挟み込んで加速する。その時、膝は出来るだけ閉じたまま蹴る」

という、1990年代末期まで使われ続けた『回転挟み込み式キック』の影響が強い。

 

2009年現在主流の『直線的に前後させるキック(ウィップキック)』がトップ選手の間で主流になり始めたのが、北島康介選手が金メダルを取った2004年アテネ五輪前後頃で、一般的な選手レベルにまで普及し始めたのが2006年〜2008年北京五輪辺りと、かなり最近の事だ。

 

すでに廃れてしまった『回転挟み込み式キック理論』も、わずか10年前までは『絶対的なキックの常識』として語られていたため、2009年現在でも、回転挟み込み式の伝説的理論を語る人がまだまだ多く、『平泳ぎのキックは回して蹴る』というイメージが未だに定着している原因だ。

※※ 備考 ※※
平泳ぎには、カエルのイメージがあり、『足を回転させる』というイメージが湧きやすいという面もある。

ただし、実際のカエルは、足を回転なんてさせていない。

膝をガバッと開いた状態から、まっすぐ後ろに押し出していて、むしろウィップキックに近い原理を使っている。

単に、『人間が持っているカエルキックの間違ったイメージ』が『足を回転させる』というだけの事だ。
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しかし、平泳ぎのキックに『回転』というイメージは、もう、まったく必要がなく、おそらく、あと5年もすれば『平泳ぎのキックは、まっすぐ後ろに押す』というイメージが定着していく事であろう。

 

初心者に必要な知識は、以上だ。プルの理論は、初心者には必要ない。

必要なレベルに達してきたら、『中級者のための平泳ぎ』を参考にして欲しい。