腰痛 (6)

〜 椅子 〜

2008.11.20

  

 

背筋を伸ばすのではない。骨盤を立てるのだ。

人間は、表面を捉えて物事を判断しやすい。「背筋を伸ばす」という忠告も同様だ。

背筋を伸ばす事は「結果」であって、「背筋を伸ばした結果、背筋が伸びている」わけではない。

骨盤を立てた結果、背筋も伸びている

のである。背筋を伸ばしたって、骨盤が寝ていれば、腰は丸まった状態のため腰痛は改善しない。

骨盤を立てれば、背筋を曲げる事は出来なくなる。背筋を前に倒したければ、骨盤ごと前に倒すしかない(太ももの付け根で、体を折りたたむ)。

骨盤を立て、骨盤を地面に対して水平に保つ事が腰痛改善には重要である。そのために、第3章で指摘したように股関節の柔軟性を確保しようというのだ。

骨盤を立てた姿勢が、寝る姿勢にも、立つ姿勢にも共通して良いように、椅子に座る時も骨盤を立てたまま座る事が腰痛を避ける最大ポイントだ。

骨盤を立てられるかどうかは、「股関節の柔軟性」と「骨盤を水平に置くための神経を生やす訓練」にかかっているが、「骨盤を立てやすい椅子」というのもある。

 

図 6-1

 

図 6-1を見て分かるとおり、座面が前傾していれば骨盤を立てやすい

椅子に太ももの付けが触るように、ちょこっと腰をかけると骨盤を立てやすい。(膝下は、置きやすいように置けば良い)

お尻で座るのではなく、太ももで座る感じだ。

古くからある座面の奥がお尻の出っ張りに合わせてへこんでいる椅子は腰に最悪だ。

深く腰をかけざるをえなくなり、お尻の所がくぼんでいるので、骨盤が寝てしまい、腰が丸まる。いくら背筋を伸ばしても、腰が丸まっているのだから意味がない。

背筋は、図 6-1の右側も左側もどっちも伸びている。表面だけ捉えて、「背筋を伸ばすように座るのが良い」などといっても嘘だという事が分かるだろう。

背筋の問題ではなく、腰の丸まり具合の問題だ。

図 6-1の左右の人間のパーツの大きさは同じだが、左側の方の人間の方が小さく見えるだろう。それだけ腰の部分に縮こまって腰に負担がかかっているのだ。

「背筋が伸びているかどうか?」ではなく、「腰がまっすぐ(骨盤が立っている)かどうか」に目を向けなくてはならない。

何事も、表面だけを漠然と捉えても無意味などころか、悪影響さえもたらす。物事は本質部分、根本部分で捉えなくてはならない。

ネットなどで「良い椅子」や「正しい座り方」を探しても、「背筋を伸ばす」とか「椅子には深く腰掛け、背筋を伸ばす」とか「腰を反る」とか嘘八百ばかりゴロゴロ出てきて、私は何が本当で、何が正しいのかぜんぜん分からなかった。

そこで私は、椎間板ヘルニアの激痛期の「腰痛センサー」を利用し、いろいろな椅子を試した。幸い私の職場には、職場の都合上、高いものから、安いパイプ椅子までさまざまな椅子が転がっていた。さまざまな椅子に、さまざまな座布団を試した。

そこで、座面が前傾している椅子は共通して、腰が比較的楽である事がわかった。ちなみに私はSEであり、毎日長々と椅子に座るので、椅子は寝具と同じくらいの時間使用しているので、非常に重要なのだ。

「座面が前傾した椅子は腰への負担が少ない」と分かった後に、「開脚」や「骨盤を立てる」という話を知り、「なぜ座面が前傾していると、腰が比較的楽なのか?」が分かった。

私の座面前傾の主張は、理屈からではなく、経験から来たものだ。経験則に理屈を当てはめると、経験と理屈とがぴったり一致したので間違いないという自信がある。

腰痛持ちなら分かるはずだが、「座っている時」と「立っている時」では、立っている時の方が腰は圧倒的に楽だ。

腰痛を持った事のない人は、「立っているより、座っている方が楽」だからといって、「座る方が腰に負担が少ない」と思っているだろうが、それは間違いだ。腰痛持ちになれば分かるが、座るのが一番腰に負担がかかる。

腰痛持ちには、「体育座り」や「座禅姿勢」は非常に苦しい。体育座りなど、もう立ち上がれなくなる。

つまり背中と太ももの角度が90度以下になると腰にかかる負荷が劇的に大きくなる。90度よりも大きな角度になるようにして座り、立った姿勢に"より近ければ"楽なのだ。

 

図 6-2

 

車の座席に座る姿勢も、世の中には嘘八百が、まかり通っている。

座席は直角にして座るのが良い。座席を倒すのは姿勢が悪くダメだ」なんてだ。絶対嘘だ。私の腰の腰痛センサーは、「嘘だ」と大声で言っている。

腰の健康な人は、座席を直角にしても大丈夫だろうが、腰痛持ちは、直角にして座れば、腰が痛くて車から降りられなくなる。

車の座席は、意味不明なのだが、図 6-2の左側のようにお尻側より膝側が上に上がって作られている。

したがって、図 6-2の赤丸側のように90度より多き角度を確保するには、座席を倒して乗るしかない。威張っているように見えるし、視界も多少悪くなるが、腰痛の激痛は我慢の限界を超えている。

座席は、倒してヤンキー乗りをすれば腰への負担は減る。そうやって乗るのが腰には楽だ。

車の座席が妙な傾きで作られているのは、カーブを曲がる時の「体のホールド性能」だと思うが、腰痛持ちの人間からすれば余計なお世話だ。

座席にホールド性能が必要なほどにマイカーでスピードを出そうなんて野郎は、「世の中の邪魔者」「未必の殺人犯」でしかないのに、邪魔者の都合に合わせて座席を設計するなど馬鹿げている。

カーブでお尻が滑るほどのスピードなんて普通の人は出さないから、ホールド性能よりも、腰への負担で設計しなくてはならない。高速性能試験にばかり目を奪われているのは、自動車業界の怠慢であり、傲慢さの表れだ

と、いくら怒っても世の中は変わらない。自分の外側にあるものは「仕方ない」と受け入れるものだ。仕方ないので、こちらが座席に姿勢を合わせるしかない。

腰痛患者は、ヤンキー乗りをするしかない。座席を倒して、こまめに体重を右に左に移動させて腰への血流を確保する。出来れば、ミニバンのような座席が高い位置にある車の方が乗り降りで、腰を痛めにくい。

椅子に座る理想系をイメージ出来るようになった所で、ベストな椅子を考えてみる。

座面は当然、前傾になっている物が良い。

椅子の座面はやわらかすぎるのは、沈んでしまうのでダメだ。ある程度硬いほうが良い。手触りの良い座面のやわらかい椅子を買いたくなるが、座った時にお尻が沈み込まない硬さが必要だ。

背もたれはほとんど使わないので、背もたれに凝る必要はない。

肘掛は必要だ。肘掛に肘を乗せて体重を支えれば腰にかかる負担も減る。肘掛にずっと肘を掛けて体を支えるのは無理だが、肘掛はあった方が断然良い。いや、実際の使用感では、ないと困る。

総合すると椅子を選ぶ時に基準となるものは

1. 座面が前傾し、お尻の部分がへこんでいない
2. 座面がやわらかすぎるのはダメ
3. 高さ調節の出来る肘掛が必要
4. 背もたれはどうでもよい

椅子も、世の中にたくさんありすぎて、どれが良いとはとても言えない。実際に座り比べないとなんともいえないのに、すべての椅子がそろっている専門店は、少なくとも私の身近にはない。

ちなみに私がいくつか都内の店を回り、座り比べてよかったのがイトーキのスピーナという椅子だ。

 

イトーキ スピーナ

 

座面がへこんでいるように見えるが、座ると体重で座面が斜め下前にせり出し、太ももで座る事が出来る。ベストとは言えないが、なかなか良い。私は買った。

私が、このスピーナとデザイン的に迷ったのが、エルゴヒューマンの椅子だ。

 

 

エルゴヒューマン

 

悪い椅子ではないのだが、実際に座った時の腰の感じがイトーキのスピーナの方が楽なような気がした。

また、エルゴヒューマンの座面にはメッシュのタイプと普通の椅子のような布のタイプがあるが、座面のメッシュは、お尻の重さでへこんでしまって良くなかった。買うなら、メッシュタイプは避けたほうが良い。ただ、デザイン的にはメッシュの方がかっこいいので、とても迷った。が、結局、腰の腰痛センサーに素直に従って、私はイトーキのスピーナにした。

しかし、人にもよるので、自分で座り比べて欲しい。私が買ったやつが一番良いわけではない。私が座り比べる事が出来た中では、一番良いように思っただけだ。

また、万人に良い椅子がある。「バランスチェア」と呼ばれる椅子だ。膝立ちのような格好で座るタイプの椅子だ。

 

       

バランスチェア

 

さまざまなメーカーから高いもの安いものが出ているのだが、私がお店で座ったら非常に良かった。骨盤的には最高だ。

が、問題点は「この椅子に長く座っていられるか?」という部分だ。膝に体重が分散されて腰は確かに楽なのだが、膝にも体重が乗るので、私のように「SEが何時間も座るのには向いてないかも」という疑問が払拭できなかった。

肘掛もないので、机で支える事になるし、長時間は座れないかもしれないという気がした。

ただ、骨盤を立てるには最高に良い。しかも、値段もそれほど高い椅子ではない。私は選ばなかったが、選択肢のひとつではあると思う。

ここで紹介した椅子は、あくまで私が実際に座って試す事が出来た中での話しだ。もっと良い椅子があるのは確実だが、私が座った事のない椅子の良し悪しは述べようがないので述べていないだけだ。

私の情報は、自分で実際に座り比べる時の参考にして欲しい。

最後に注意して欲しいのは、

どんなに良い椅子でも、座り続けると腰に負担がかかる

という事だ。私は1時間に1回は立ち上がって歩き回るようにしている。仕事が忙しくてうっかり3時間くらい没頭して座っていると、腰がすぐには伸びない危険な状態になる。

最低でも1時間に1回は立ち上がって、歩き回る必要が必ずある。できれば、30分に1回は立ち上がりたいが、そんなに立ち上がるのは意外に面倒だ。

また、寝具でも述べたが、

椅子を変えたからといって腰痛は治らない

腰痛は、「開脚による股関節の柔軟性確保」と「姿勢(骨盤を立てる)」によって改善するものだ。

椅子にお金を出すだけで腰痛を治そうなんてムシの良い話はない。自分の体には自分で責任を持って積極的に関わり、コツコツのめんどくささを受け入れて、股関節の柔軟性を確保する事が一番重要だ。

椅子を変えるのは、良くなった腰を再び悪化させないためのものでしかない。

勘違いをしてはいけない。