重心移動ベクトル化運動理論 (5)

〜 「手(上半身)」「足(下半身)」の役割 〜

高橋大和
2008.06.01

  

 

「重心」から見た「手(上半身)」「足(下半身)」は

「手足は、重心を動かす道具」

という事だ。

 

手足は、"移動する物体そのもの"ではなく、移動する物体(重心)を移動させるための道具なのだ。

 

もっと細かく見れば

「手は、重心を引っ張る道具」

「足は、重心を押す道具」

なのだ。

 

これは、非常に重要な示唆である事を認識して欲しい。

下記の図5-1を見て欲しい。

 

図 5-1

 

「移動運動」を「重心移動」と捉え、重心移動運動をベクトル化して考えると、手(上半身)、足(下半身)が何をしているのかが一目瞭然であろう。

 

そう、上半身は重心を引っ張り下半身は重心を押しているのだ。

図5-1のように、A地点からB地点に体が移動する時、体全体が移動しているわけではなく、重心がAからBに移動しているだけなのである。

 

手足は、その重心を移動させるための道具であるのだ。

 

手足が重心と繋がっているので、結果的に体全体が移動はしているが、実際には重心が移動し、手足は重心を移動させる道具であるのだ。

 

図5-1のA地点からB地点への移動をベクトル図として表したものが、下記の図5-2である。

 

図 5-2

 

足(下半身)で押した力」と「手(上半身)で引っ張った力」のベクトル和が、移動距離なのである。

 

正確には、下半身で重心を押した力+上半身で重心を引っ張った力のベクトル和が移動距離(あるいは、移動速度)なのである。

 

もちろん、ベクトル和を最大にするためには、重心の移動方向に0度で力をかけなければならない(図5-3のB'地点)。

 

図 5-3

 

しかし、陸上競技の場合、水泳競技のように水面に浮かんでいるわけではないので、体を0度に寝かせて力をかける事は不可能に近い。

 

従って、陸上競技の場合、重心がまっすぐ動くフォームで、かつ、「脚力」と「上体の引っ張る力」が重心の移動方向に向かうように手足を動かすようにするのが、ベストなフォームとなる。

(陸上の競技でもボブスレーのような寝転んで飛び出す競技なら、体をより0度に寝かせて力をかける事は可能であろう。
理論を理解し、自分の競技種目にベクトル的に当てはめて欲しい)

 

「運動を重心移動と捉え、その重心に対してかかる力をベクトル化して考え、ベクトル的に一番効率が良くなるように体を使い、フォームを組み立てる」

という私の理論が理解できたであろうか?

 

運動における手足の役割が分からずして、手や足の理想の動きを議論しても無意味だ。

手や足や体幹の役割を認識して、手や足や体幹といったパーツの役割通りの細かな動きを議論しなければ、意味がないのだ。

 

どんな競技であっても、手や足の動きを、闇雲に

「こういう動かし方が良いのではないか?」

と議論しても、さまざまな理論が乱立し、時代や国によって流行のフォームがもてはやされる結果になるだけだ。

 

体の各パーツの役割を捉え、

「各々のパーツが最も効果的に役割を果たすためには、どのような動きが理論的に一番良いか」

を考える事が、理論上の理想のフォームとなるはずだ。

 

理論上の理想のフォームのイメージが頭で描ければ、後は自分の体でそれをどう表現し、競技へと繋げていくかを練習の中で模索していけば良い。

私の唱える重心移動ベクトル化運動理論が理解できれば、図5-1の走るフォームに、もっと効率的な動きの理論を予想する事も可能だ。

 

例えば、図5-1の「後ろに蹴り出す足」は確かに重心を押しているが、「前に踏み出す足」を遊ばせる事はない。

可能であるのなら、「前に踏み出す足」を腕と同様に、重心を引っ張る動きに繋げて利用すれば、もっと効率的な走りになるはずだ。

 

「実際に出来る走りなのか?」は、競泳の平泳ぎが専門の私には断言できないが、少なくとも理論上は、

「前に踏み出す足の勢いを重心にうまく伝えて、踏み出す足で重心を引っ張る事が出来るフォーム」

で走れれば、速く走れる。

 

「重心を引っ張る動き」には出来なかったとしても、

「後ろに蹴り出して重心を押している力を殺さないような、足の運び方を考えたフォーム」

は、実現可能であるはずだ。

(現実的には、「前に振り出す足の力」を「重心を引っ張る力」に回す事は非常に難しいと思われる。

なぜなら、エネルギー保存の法則から、蹴り出した後、両足が地面から離れて空中にいる人間に、外からエネルギーを加える事は出来ないため、仮に足を強く前に振り出して重心を引っ張ったとしても、そのエネルギーは「重心を押す力」から回されて来たものであり、その分、重心を押して加速する力が弱まると考えられるからである。

もし、振り出す足の力を重心を引っ張るために利用しようとするのなら、蹴り出しにより重心を押し出す力が「押す力」以外のどこかに逃げているその力を利用しなければ、意味がない。

そういった事からすると、前に振り出す足が、重心を後ろに引っ張らないように効率的に前に足を出すフォームを模索する事の方が現実的であろうと予想される)

 

この予想が理論上良いと考えるのなら、陸上競技が専門の選手なら可能性を模索するのが常道であろう。

 

ただし、注意して欲しいのは

「足が外見的にどの方向に動いているのか?」
「手が外見的にどの方向に動いているのか?」

ではない事に注意して欲しい。

 

「動かした手や足や体幹の力が、重心にどのようなにかかっているのか」

感覚で確かめながらフォームを作り込んで欲しい。

「見た目」ではなく「感覚」だ。

 

「理論」だけでなく、「感覚」を研ぎ澄まして感じて欲しい。

 

私の感覚では、「重心」は「丹田」であり、丹田を意識する事で、重心にかかる力を感じる事が出来る。

当初は感じれないかもしれないが、「意識」する事で、必ず感じるようになる。

 

次項では、その意識すべき丹田を絡めて、重心をまっすぐ動かすのに必要な筋肉の動きについて考察する。