重心移動ベクトル化運動理論 (5) 〜 「手(上半身)」「足(下半身)」の役割 〜 高橋大和 |
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「重心」から見た「手(上半身)」「足(下半身)」は 「手足は、重心を動かす道具」 という事だ。
手足は、"移動する物体そのもの"ではなく、移動する物体(重心)を移動させるための道具なのだ。
もっと細かく見れば 「手は、重心を引っ張る道具」 「足は、重心を押す道具」 なのだ。
これは、非常に重要な示唆である事を認識して欲しい。 下記の図5-1を見て欲しい。
図 5-1
「移動運動」を「重心移動」と捉え、重心移動運動をベクトル化して考えると、手(上半身)、足(下半身)が何をしているのかが一目瞭然であろう。
そう、上半身は重心を引っ張り、下半身は重心を押しているのだ。 図5-1のように、A地点からB地点に体が移動する時、体全体が移動しているわけではなく、重心がAからBに移動しているだけなのである。
手足は、その重心を移動させるための道具であるのだ。
手足が重心と繋がっているので、結果的に体全体が移動はしているが、実際には重心が移動し、手足は重心を移動させる道具であるのだ。
図5-1のA地点からB地点への移動をベクトル図として表したものが、下記の図5-2である。
図 5-2
「足(下半身)で押した力」と「手(上半身)で引っ張った力」のベクトル和が、移動距離なのである。
正確には、下半身で重心を押した力+上半身で重心を引っ張った力のベクトル和が移動距離(あるいは、移動速度)なのである。
もちろん、ベクトル和を最大にするためには、重心の移動方向に0度で力をかけなければならない(図5-3のB'地点)。
図 5-3
しかし、陸上競技の場合、水泳競技のように水面に浮かんでいるわけではないので、体を0度に寝かせて力をかける事は不可能に近い。
従って、陸上競技の場合、重心がまっすぐ動くフォームで、かつ、「脚力」と「上体の引っ張る力」が重心の移動方向に向かうように手足を動かすようにするのが、ベストなフォームとなる。 (陸上の競技でもボブスレーのような寝転んで飛び出す競技なら、体をより0度に寝かせて力をかける事は可能であろう。
「運動を重心移動と捉え、その重心に対してかかる力をベクトル化して考え、ベクトル的に一番効率が良くなるように体を使い、フォームを組み立てる」 という私の理論が理解できたであろうか?
運動における手足の役割が分からずして、手や足の理想の動きを議論しても無意味だ。 手や足や体幹の役割を認識して、手や足や体幹といったパーツの役割通りの細かな動きを議論しなければ、意味がないのだ。
どんな競技であっても、手や足の動きを、闇雲に 「こういう動かし方が良いのではないか?」 と議論しても、さまざまな理論が乱立し、時代や国によって流行のフォームがもてはやされる結果になるだけだ。
体の各パーツの役割を捉え、 「各々のパーツが最も効果的に役割を果たすためには、どのような動きが理論的に一番良いか」 を考える事が、理論上の理想のフォームとなるはずだ。
理論上の理想のフォームのイメージが頭で描ければ、後は自分の体でそれをどう表現し、競技へと繋げていくかを練習の中で模索していけば良い。 私の唱える重心移動ベクトル化運動理論が理解できれば、図5-1の走るフォームに、もっと効率的な動きの理論を予想する事も可能だ。
例えば、図5-1の「後ろに蹴り出す足」は確かに重心を押しているが、「前に踏み出す足」を遊ばせる事はない。 可能であるのなら、「前に踏み出す足」を腕と同様に、重心を引っ張る動きに繋げて利用すれば、もっと効率的な走りになるはずだ。
「実際に出来る走りなのか?」は、競泳の平泳ぎが専門の私には断言できないが、少なくとも理論上は、 「前に踏み出す足の勢いを重心にうまく伝えて、踏み出す足で重心を引っ張る事が出来るフォーム」 で走れれば、速く走れる。
「重心を引っ張る動き」には出来なかったとしても、 「後ろに蹴り出して重心を押している力を殺さないような、足の運び方を考えたフォーム」 は、実現可能であるはずだ。 (現実的には、「前に振り出す足の力」を「重心を引っ張る力」に回す事は非常に難しいと思われる。 なぜなら、エネルギー保存の法則から、蹴り出した後、両足が地面から離れて空中にいる人間に、外からエネルギーを加える事は出来ないため、仮に足を強く前に振り出して重心を引っ張ったとしても、そのエネルギーは「重心を押す力」から回されて来たものであり、その分、重心を押して加速する力が弱まると考えられるからである。 もし、振り出す足の力を重心を引っ張るために利用しようとするのなら、蹴り出しにより重心を押し出す力が「押す力」以外のどこかに逃げているその力を利用しなければ、意味がない。 そういった事からすると、前に振り出す足が、重心を後ろに引っ張らないように効率的に前に足を出すフォームを模索する事の方が現実的であろうと予想される)
この予想が理論上良いと考えるのなら、陸上競技が専門の選手なら可能性を模索するのが常道であろう。
ただし、注意して欲しいのは 「足が外見的にどの方向に動いているのか?」 ではない事に注意して欲しい。
「動かした手や足や体幹の力が、重心にどのようなにかかっているのか」 を感覚で確かめながらフォームを作り込んで欲しい。 「見た目」ではなく「感覚」だ。
「理論」だけでなく、「感覚」を研ぎ澄まして感じて欲しい。
私の感覚では、「重心」は「丹田」であり、丹田を意識する事で、重心にかかる力を感じる事が出来る。 当初は感じれないかもしれないが、「意識」する事で、必ず感じるようになる。
次項では、その意識すべき丹田を絡めて、重心をまっすぐ動かすのに必要な筋肉の動きについて考察する。
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