伏し浮き(蹴伸び)技術 (4)

〜 フォームとの関係 〜

高橋 大和
2008.02.01

  

 

【伏し浮きとフォームの関係】

2008年現在の理想とされるフォームは、伏し浮きをベースにしたフォームなのだ。

北島康介選手の泳ぎにしろ、2軸泳法にしろ、ストレートアームにしろ、伏し浮きをベースにしたフォームである。

 

伏し浮きが出来ないのに、彼らの真似をしても、逆効果だ。

 

伏し浮きが出来ない人に向いているフォームは1980年代までの古いタイプのフォームだ。

自由型なら中心1軸S字ストロークだ。

 

現代のフォームと2000年以前のフォームと何が違うのかというと、

「現在のフォームは、"抗力"主体で推進力を発生させ泳ぐが、古いタイプのフォームは"揚力"と"抗力"を混ぜて推進力を発生させて泳いでいた」

この点が、決定的に違う。

揚力とはおおよそ「浮力」の事で、抗力はおおよそ「押す力」「引っ張る力」の事だ。

 

私が現役選手だった1980年代後半に自由型の常識だった

「中心1軸S字ストロークで、プルのフィニッシュは強く太ももまでかき切れ」

否定され、2008年現在の自由型のフォームは

「2軸のストレートストローク(I字ストロークとも言う)で、プルのフィニッシュは腰の所で抜く」

のが常識となった。

 

この理想のフォームの違いは、「揚力」を使うか使わないかの違いだ。

現代のフォームは、どの種目でも抗力を最大限使って推進力を得るように考えられている。

 

伏し浮きの出来ない選手は、揚力を使って浮力を発生させざるを得ないので、抗力で泳ぐ現代のフォームで泳ぐ事は不可能だ。

表面的に現代のフォームをマネても逆に遅くなるはずだ。

 

この辺りの「抗力」「揚力」の関係は、防衛大学の伊藤慎一郎さんが提唱しているスッポン泳法が分かりやすい。

「スッポン泳法」と聞くと、そのイメージから、競泳選手は「読む気もしない」かもしれないが、競泳の研究者の中では結構知られている泳法だ。

 

中身を読めば分かるが、決してあんちょこな理論ではない。

この理論がどの程度正しいのかは、専門家ではない私にもハッキリとは分からないが、少なくとも、現代フォームを理解する事に役に立つ事は間違いない。

 

揚力と抗力の関係が分かれば、2008年現在の理想の推進力は「抗力」である事が分かる。

 

従って伏し浮きが出来ない選手は、私が現役選手だった1980年代までなら、オリンピック出場のチャンスもあっただろうが、2008年の現代で日本記録を出し、オリンピックに行くのは限りなく不可能に近い事が分かるだろう。

 

日本新記録保持者は、揚力など、もう10年も前から使っていないのだ。

 

逆に言えば、日本新記録保持者は10年も前から抗力を使って泳いでいるから、世界に追いついたのだ。

 

前項で記した元100M自由型日本新記録保持者の藤原勝教さんは1980年代後半に活躍した選手だ。

今から実に、20年も前に、伏し浮きの重要性に気付いて、そこからフォームを組み立てていたのだ。

20年も前に2008年の技術を使っていたのだから、日本記録が出せるのは当たり前といえば当たり前なのだ。

 

その20年後の現代にいる競泳選手である読者の選手が、

「伏し浮きなんて出来なくても関係ないよ」

など言っていて良いはずがない事は、わかるだろう。

 

よく分かったところで、少し視点を切り替えて、もう一歩高いところから伏し浮き話を捉えて、発想を飛躍させて欲しい。

 

「意識」していたか、「無意識」だったかは別にして、

「10年先の技術を使っている選手が、日本記録を出している」

という視点からこの話を捉えて欲しい。

10年先のテクニックさえ手に入れれば、凡人であってもオリンピックのチャンスがあるという現実にも気付いて欲しい。