伏し浮き(蹴伸び)技術 (1)

〜 伏し浮き 〜

高橋 大和
2008.02.01
一部修正 : 2008.09.20

  

 

「伏し浮き(蹴伸び)なんて、完璧に出来なくても大丈夫だろ」

なーんて思った、そこの競泳選手。

 

君は、「現役競泳選手」を語る資格はない。

 

選手であるなら、伏し浮きは、絶対に出来なくてはならない。

 

図 1-1

 

伏し浮き(ふしうき)とは、推進力がゼロでも図1-1のような状態で浮き続ける事をいう。

あるいは、壁を蹴ってストリームライン姿勢のまま進み続ける「蹴伸び(けのび)」で、推進力がゼロになってもそのまま浮き続ける事をいう。

 

スカーリングや推進力がないと「足先から沈み始める」のは「伏し浮き」とは言わない。

 

「伏し浮き(ふしうき)」という言葉自体を知らないのは仕方ないが、伏し浮きは、競泳選手なら、絶対に、全員、出来なくてはならない技術だ

なぜなら、競泳でもお尻(重心)をより効率的にまっすぐ移動させる事が速さを決めているからだ。

 

重心移動ベクトル化運動理論で述べている通り、競泳もお尻(重心)が一定の泳速で移動しているだけだ。

一見すると、手足をバタバタと動かして体全体が泳いで進んでいるように見えるが、お尻に注目して泳ぎを見てみると、実際には手足を移動のための道具として使ってお尻(重心)を移動させているだけである事が分かる。

 

重心移動ベクトル化運動理論で述べているように、

「泳ぐ速さを競う」

という事は、

「お尻(重心)の移動効率(移動速度)を競っている」

という事である。

 

つまり、お尻(重心)を上下左右に動かす事なくまっすぐ移動させる選手が力を一番効率よく推進速度に変換し、かつ、最短距離でゴール出来るので、速いに決まっている(第5章 図 5-5参照)。

上下左右に動かすのは重心以外の部分である。

(小学生のような極端に遅い選手を見れば分かるように、遅い選手はお尻がブレて泳いでいる)

 

お尻(重心)を一切上下させずに泳ぐには、伏し浮き姿勢にプル/キックを入れる泳法で泳ぐしかない。

逆に言えばプル/キックのテクニックは、伏し浮き姿勢を崩さない範囲内で模索しなければならない。

 

したがって、

「実際に泳ぐ時には、蹴伸びから失速する前に、キックを打って泳ぎ始めるのだから、伏し浮きは出来なくても問題ない」

などと考えるのは、大きな間違いである。

(これでは、キックのリズムや泳速に合わせてお尻が上下してしまう。力のベクトルが斜め上に向くのも無駄である。)

 

トップクラスに近い現役選手ですら、伏し浮きの重要性を甘く考えている選手が、どうも、ゴロゴロいる。

間違いである!

 

国体選手ごときに、「間違いである!」なんて言われても、信じたくない気持ちは分かるが、

間違いである!

 

「基本は大切だ」という"きれいごと"で言っているのではない

わずかなタイムを競う競泳選手だからこそ、絶対に必要な事なのだ。

 

「なぜ、そう断言できるのか?」

というと、私自身が「俺には出来ない」と諦めたくなるほど、まったく浮く気配すらなく出来なかったのに、出来るようになったからだ。

 

出来るようになってしまえば、簡単に出来ることであり、また、その重要性に"感覚的に"気付く事が出来る。

 

伏し浮きは、「体の使い方」や「肺にたくさん空気を溜め込んで」どうこうするものではなく、

「重心の置き方浮心の取り方」

の問題である。

 

水に対して、自分の重心と浮心を正しい位置に置けないから、浮けないのである。

 

よく耳にする勘違いが

「トップ選手だから出来る。自分はまだ、そんなに速くないから出来ないんだ」

とか

「自分の体は筋肉質で重たいから出来ないんだ」

とか

「脂肪の付き具合とかが関係していて、自分の体は浮けない構造になっているんだ。"浮ける体の人"と"浮けない体の人"がいるんだ」

とかいった事だ。

すべて、間違いだ。

 

実際、私の周りで出来なかった人も、全員出来るようになった。

体脂肪率も低く筋肉質で重たそうな人も全員出来るようになった。

 

素人レベルの泳ぎをしている人でさえ、伏し浮きが出来る人は、ゴロゴロいて、息継ぎが出来ないからカナヅチなだけで、伏し浮きに関しては、なんなく出来た人もいる。

確かに脂肪の多い人が浮きやすかったり、女子選手に出来る人が多い傾向はあるが、多少の「浮きやすさの違い」はあれど、

五体満足の人間なら、全員できる事は100%間違いない。

「体つきの問題」より、「水に対するセンスの差」の方が大きい。

伏し浮きは、まったく泳げないカナヅチの幼児ですら出来る。

むしろ、幼児は無駄な力を入れないだけに、水に対する恐怖心だけ取り除いてあげれば、プカーっと浮き続ける事が出来る割合が意外に高い。

 

成長した競泳選手の方が、無駄な力を入れるようになってしまっているので、出来ない割合が高いくらいだ。

 

「伏し浮きが出来る人でも遅い人」
「伏し浮きが出来なくても速い人」

がいるので、なおさら、「出来なくても大丈夫なんだ」と競泳選手が「勘違い」「言い訳」をしやすい。

 

大丈夫ではない!