平泳ぎ (3) 〜 平泳ぎ進化の歴史 〜
2008.10.01 |
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フラット化の方向に向かっている2008年の最新泳法しか知らない若い現役選手は、 『うねって泳ぐより、フラットにまっすぐ進む方が最短距離で泳げるのに、上下動して、うねって泳ぐなんて奇妙な泳法が、なぜ生まれたのだろう?』 と疑問に思うかもしれない。
しかし、これには理由がある。 『上下動して、うねるように泳ぐフォーム』も、進化の過程で生まれてきた泳法なのだ。
下図は、平泳ぎの呼吸動作時のおおよその姿勢を、各世代ごとに表したものだ。
1980年以前の平泳ぎは、平泳ぎの発想自体がカエルをイメージした所から始まっていたため、元々フラットに泳いでいた。 古い所では、『前畑がんばれ、前畑がんばれ』で有名な前畑秀子さんの水面を這うように泳ぐフラットな平泳ぎだ。
この時代のフラット泳法平泳ぎは『最新泳法のフラット化』と違い、呼吸動作と一緒に手と足を動かし、手先、足先の弱い力でストロークしていた。
しかも、頭を上げ下げするだけの息継ぎでは、膝が深く屈曲していて抵抗が多く、死を覚悟して獲得した五輪金メダルでありながら、200M平泳ぎが3分3秒6と、 今では小学生でもこんなに遅く泳ぐ事はないほどのタイムしか出なかったのだから(2011年現在の女子学童記録が2.34.68)、いかに泳法テクニックが重要かが分かる。 ※ 備 ※ ナチスドイツ支配下のベルリン大会である事から分かるように、『金メダルを期待された』という軽い期待ではなかったようで、以前テレビ番組で本人が話していたが、 『金メダルが取れなかったら日本には帰れない。銀メダルなら、死のうと思っていた』 と話していた。
1972年には、膝を狭く閉じて蹴る現在のキックの原型となった田口キックが開発され、男子100M平泳ぎで、1分5秒を割る事になる。
長崎宏子さんが活躍した1980年代には、上体を斜めに引き起こしながら膝足を引き付ける事で、膝の屈曲を減らしたナチュラルブレストが流行した。
ただ、この1980年代には、水没禁止というルールがまだ存在していて、 上半身を水上に大きく出して上体を起こすと、その後に反動で頭が水面下に沈んで失格を取られてしまうため、 下半身を沈める事で上体を起こし、キックを『へ』の字状に、斜め下へ蹴り込む事で、沈み込んだ腰を水面まで戻していた。
つまり、ナチュラルブレストでは、下半身が上下動していた。
1980年代 ナチュラルブレスト
1987年に『1ストロークごとに1回、頭が水上に出れば良い』と水没禁止ルールが大きく緩和された事により、 『上半身を水上に大きく出して上下動するウェーブ泳法』 が流行り始め、1990年代末期まで使われ続けた。
このウェーブ泳法の利点は、 『水没禁止時代に水面下に沈んで上下動していた腰を、上体を水上へ高く引き上げる事で、プル動作中にも腰を高い位置に保ち続け、水中で下半身が大きく上下動する事を防いだ』 所だ。
つまり、『下半身の上下動』から『上半身の上下動』へ進化したわけだ。
しかし、そのウェーブ泳法にも、
【1】 【2】
という不利な点は残っていた。
つまり、ウェーブ泳法は『スピード』や『疲労』の面で不利な条件が残されたままの泳法だった。
『水面下』か『水上』かの差はあれ、『水の抵抗を減らすという視点』から『体を上下動させる時代』は20年(1980〜2000年)も続いた。
※※ 水没禁止ルール解説 ※※ 平泳ぎの潜水泳法を使った古川勝さんが、1956年メルボルンオリンピックで金メダリスを取ると、 『平泳ぎは常に、水上に頭が出ていなくてはならない』 という曖昧なルールが作られ、以後30年間(1987年まで)、多くの選手が水没禁止ルールに苦しまされる事になった。 ジェシーバサロさん(アメリカ)の開発した背泳ぎのバサロスタートも、1988年に鈴木大地さんが金メダル獲得した翌年、規制。 バタフライの潜水ドルフィンも、1990年代中盤、当時最古の世界記録であったメアリーマーハーさんの世界記録に15年ぶりに青山綾里選手が迫った事で規制。 現在では、本来『自由』であるはずの、自由形ですら潜水規制。 日本女子バレーボール東京オリンピック金メダル獲得直後、ネットの高さを上げて、背の低い人種に不利なルールに変更。 ジャンプの得意な荻原選手の登場で、スキーのノルディック複合のジャンプ得点比率の低減。 長野オリンピックの日本スキージャンプの活躍により、スキーの板の長さを身長に比例するように規制し、背の低い人種に不利なルールに変更。 反面、白人社会で開発されたスピードスケートのクラップスケート靴や、水泳のスピード社が開発したレーザーレーサー水着といった『ルールに抵触しかねない限りなく黒に近いグレーな開発』には、目を瞑る。 もしこれが日本で開発された物なら、失格を取られた事であろう。
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