スプーン泳法 (3)

〜 モーターボート泳法の限界 〜

高橋 大和
2010.09.01

  

 

■ 旧式 『モーターボートイメージ』のベクトル図

モーターボートイメージ型の泳ぎでは、伏し浮きテクニックを使っていないため、そのままでは重心(体)が沈む。

 

キックやS字ストローク(スカーリング)、あるいは、『体全体の上下動』といった動作から、

『重心位置を維持するための力』を発生させる必要があった。

 

 

 

そのために、『自分の体から出力できる力のすべて』を推進力に利用する事は出来ず、

『浮力を作り出す力』と『推進力』に分散

する羽目になる。

(力を分散した挙句、後半疲れてくるとキックやプルが弱くなり、腰が沈んで体を高い位置に保てない)

 

『前方移動の推進力』以外に、『浮力の発生』に力を分散させた事を示す『ベクトル図』が、下の図だ。

 

 

【1】 力を分散する無駄
『体からの出力』を『浮力の発生』に利用した分、『推進力』が削られてしまったのはもちろん、

【2】 力が上に逃げる無駄
『力のベクトルの向き』が、ゴール方向(前方)ではなく、斜め上に向いてしまっているのが分かる。

 

 

■ 伏し浮きの出来ない選手は、旧式泳法で戦うしかない

このベクトル図を別の切り口から眺めると、モーターボート泳法の別の姿が見えるようになる。

『ベクトル図』、『モーターボート泳法』、乗せてみる。

 

『ベクトル図の上に』 => 『泳ぎを乗せる』

という思考順序が、『新しい視点で捉える』ためには大切だ。

 

モーターボート泳法のベクトル図

 

見えただろうか?

 

『昔の泳ぎは、腰を反ってるから悪い』

ような気がするが、

『その捉え方では、原因と結果が逆』

だ。

 

『同じ事実でも、どの方向から切って捉えるかによって、現実が逆さまに見える』

のは世の中と同じで、自分の視点が、逆さまに世の中を見ているから、

『腰の反りさえ直せば、良いんだろ』という『間違った解決策』

を模索する羽目になる。

 

原因と結果を逆に捉えているのだから、そこから出てくる解決策が役に立たないのは当然で、

『入力が間違っている』のに、『答えが違う』と悩み続けても、解決策は生まれない。

 

 

『原因と結果』を注意深く捉え直せば、

『伏し浮きが出来ない代わりに、手や足で水を押さえつけて重心を支えている選手は、力が(ベクトルが)斜め上に向いているため、腰を反るしか方法がない。

力が斜め上に向いているのに、無理して上半身だけを水中に突っ込むと、泳ぎがツンノメってバランスが崩れ(あるいは、キックが空中を空蹴りして)、余計に遅くなる。

ツンノメらずに上半身を突っ込むために腰の力を抜くと、今度は重心が沈む上に、プルとキックを繋ぐ力が作り出せず、余計に遅くなる。』

という、

伏し浮きが出来ない選手は、どう転んでも、現在のフラット泳法を実現できない現実』

が、見て取れる。

 

つまり、斜め上に力がかかっている都合上、伏し浮きが出来ない人が腰の反りを直す事は出来ない。

 

 

『斜め上に向かうベクトル』を生み出している根本原因は、

『伏し浮きが出来ない事を放置した代わりに、手足で水を押して体を支えようとしているから』

であるので、

『伏し浮きが出来るようになり、泳ぎの中に伏し浮きテクニックを取り入れれば、腰の反り(旧泳法)は勝手に直る』

わけだ。

 

原因さえ正しく捉えられれば、そこから出てくる戦略も的を得たものになり、

『(ストロークの軌跡といった)表面的な動作ばかりを真似る無駄な時間』

を浪費する事なく、より効率的なステップアップ作戦を実行できる。

 

 

マスターズ選手で伏し浮きが出来ず、

『泳ぐ事に速さを求めているのではなく、楽しさを求めている』

のなら、現在の選手の泳ぎを真似るのではなく、

『1980年代の選手の泳ぎを真似て、モーターボート泳法を極めた方が、成長戦略として良い』

だろう。

 

ただ、もし、現役選手で上位を目指しているのなら、泳ぎやタイムを追及する前に、

『伏し浮きが出来なくてもなんとかなる』という甘えた思想

は、さっさと捨てる事だ。