泳道楽 (6)

〜 プラス/マイナスの特性 〜

高橋大和
2009.10.01

  

 

運を引き寄せるには、悪い事を減らし、良い事を増やせばよい事は、『運の方程式』から分かった。

しかも、出来る限りネガティブな部分までをも、プラスに利用する事が重要である事も分かった。

 

これを具体的に実践するには、その特性をよく知る必要がある。

『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』で、戦略を考える時には、まずその性質をよく知る必要があるからだ。

 

 

■ プラスとマイナスの特性 

マイナスの力は、プラスの力より比重が重い。

プラス < マイナス

同じ大きさのプラスとマイナスであっても、その合計は、マイナス側に引きずられる。

 

例えば、遺伝から来る体の大きさの場合、ほとんどの競技で

 

『体が大きい』方がプラス
『体が小さい』方がマイナス

 

だ。(体操競技や競馬など、体が小さい事が有利なものもあるが)

この場合、体が大きい事から来る有利性より、体が小さい事から来る不利の方が大きく足を引っ張ってくる。

 

例えば、思考回路の場合、プラス思考とマイナス思考では、マイナス思考の方が大きく足を引っ張る。

『俺もがんばれば何とかなるんじゃないか』と前向きに考える日が1日あり、別の日に『やっぱり俺はダメなんじゃないか』と後ろ向きに考える日が1日あったとすれば、同じ1日ずつであったにもかかわらず、その人の結果は悪い方に転がりだす。

 

プラスの比重を『1』とすれば、マイナスの比重は例えば、『1.1』という具合だ。

これを、『運の方程式』にある『自分でコントロール可能な運』にして表すと、

 

自分でコントロール可能な運 = (1 × プラス) + (-1.1 × マイナス)

 

という具合だ。マイナス側の比重『-1.1』が強く効いて来る。

 

数式で書くと、何か特殊な事のようにも思えるが、これは、不思議でも、神秘でもなく、経験と照らすと、しっくり来る。

 

例えば、物事は、ボーっと何もしなければ、何も変わらないわけではない。

ボーっとしていると、最初は徐々に、後半は加速度的にマイナス側に引きずり込まれて、いずれマイナスな結果が出てくる事は、経験的にも納得できるだろう。

 

つまり、『物事は元来、マイナスの性質を帯びやすい物』と、おおよそ言える。

マイナスはプラスと比べて、比重が重いといえる。

 

 

■ ネガティブな素質の重要性

『比重の重いマイナス』がプラスに転化された時、それは『比重の重いプラス』となる。

これが、一見ネガティブに思える素質が、重要であり、有用な所だ。

 

『プラスで積み上げた運』

よりも、

『ネガティブ(マイナス)を利用し、プラスに転化して積み上げた時の運』

の方が大きくなるのだ。

 

この事は理屈で書くと、なんとなく屁理屈のように思えるが、大人になれば多くの人が経験的に知っており、感覚的に納得している事だ。

 

例えば、『映画 スターウォーズ』。

 

主人公ルーク・スカイウォーカーは、特殊な能力を持って生まれた者が修行を積んだ時になれる『ジェダイの騎士』になるために、師匠であるオビワンの元で修行を積む。

ところが、彼の父親は、ジェダイの騎士になるための修行中に暗黒面の力に負けてしまい、悪人ダースベーダーになってしまう。

『ルーク・スカイウォーカー』対『ダースベーダー』の善悪対決が行われる話だ。

 

結果は、悪(マイナス側)のダースベーダーではなく、善(プラス側)のルーク・スカイウォーカーが勝つ。

ただし、師匠であるオビワンは、ルーク・スカイウォーカーが修行を終えて完全な騎士になるまで、悪のダースベーダとは対決させようとしない。

ルーク・スカイウォーカーが中途半端な修行のまま、悪のダースベーダーと安易に戦えば、彼もまた、暗黒面に引き込まれてしまう可能性の高さを知っているからだ。

 

これは、位置エネルギー図にして捉えると、理解しやすい。

 


修行中に勝負をしても、坂道をコロコロと駆け下りてブラックホールに吸い込まれてしまうかのように、マイナス側へ結果が振れてしまい、ダースベーダー(マイナス)には勝てない。

しかし、修行が完成すれば、もうダースベーダーには負けない(上り詰めたプラスは、マイナスには負けない)

 

これを『結果』の視点で見るのではなく、

『持って生まれた能力をどのように磨いたか』

の視点で見ると、本質が捉えられる。

 

『ジェダイの騎士になれる能力を持っているかどうか』は、生まれた時にすでに決まっており、『勝者であるルーク・スカイウォーカー』も『敗者であるダースベーダー』も、元々持っていた能力は同等だ。

勝者と敗者の違いは、『持っている能力をどのように磨いたか』の違いだ。

 

「ダースベーダーだって努力をすれば勝てるじゃないか」

という事はない。

喧嘩に勝とうと、死ぬほど努力したヤンキーは、もうそれは、立派なボクサーだ。

 

同様に、ダースベーダーが努力をしたら、それはもう、『悪人ダースベーダー』ではなく、『ルーク・スカイウォーカーの父、アナキン・スカイウォーカー』なのだ。

上り詰めても安住する事なく精進をし続けるから、プラス側のジェダイの騎士でいられるのであって、マイナスに安住する人間に、努力は出来ない。

努力できないから、マイナス側にいるのだ。

 

もし、ダースベーダーに負ける事があるとすれば、それは『神様(天)の支配する運』が、強く作用した時だけだ。

 

これが競技スポーツなら

 

『背が小さいというネガティブな要素を、「人の何倍も練習しなくてはならない」という口実として使い、人の何倍もトレーニングをする。

しかし、トレーニングも途中なら、やっぱり背が小さいという事でなかなか勝てない。

ところが、諦めずにトレーニングを重ねて完成の域に達すると、背の大きい奴に勝つようになる。

場合によっては、世界記録、金メダルという結果に繋がり、

「背が小さかった事で、金メダルを取れるような選手になれた」

と分析するようになる。』

 

という事だ。

 

『スポーツを、運を動かす運動』にして、『勝つべきして勝てる』所まで準備した『勝てる戦術』を使うから、勝てるのだ。

空想話のスターウォーズには違和感があっても、この話に違和感はないはずだ。

 

これを、もう少し深く掘り下げると、もっとよく理解できる。

 

プラスとマイナス、例えば体の大きい/小さい、例えば運動センスが良い/悪いは、本当は本来、どっちも同じ力(同じ比重)を持っている。

しかし、人間が『必死になる時』、それは、良い状況よりも、悪い状況の時に何とかしようと必死になれる。

 

『素質が小さいから負け続ける。その悔しさから必死になった選手』

と、

『素質があったがために負けることが少なく必死になる機会が少なかった選手』

が戦えば、当然、必死になった時間が多い選手ほど、勝ちやすい状況になっていく。

 

ある素質が競技にとって有利であるか不利であるかは、その素質を扱う人間が決めている事であり、プラスの素質が有利で、ネガティブな素質が不利なわけではない。

むしろ、『ネガティブな素質を生かす/生かさない』が勝敗に大きく作用してくる事になるのだ。

 

そして、その『物事を捉える視点』が心を磨き、『運』をも引き寄せてくるのだ。

 

もし、自分にネガティブな素質が見当たらないような、素質十分に生まれてきた選手がいるとすれば、『自分には何がマイナスなのか』が見え難いだけに、非常に難しい立場に置かれている事になる。

プラスの状況で努力するよりも、マイナスな状況で努力する方が自然だからだ。

 

なだけに、素質ある選手の多くは現状に満足して練習を怠り、栄華に浸って飲み潰れて素質をも潰してしまう方が普通の事で、『努力する天才』イチロー選手のようなヒーローは、たまにしか誕生しないのだ。

 

『努力する天才』には勝てなくとも、『天才が努力を重ね続ける事は稀』なのだから、『生れながらにして素質の高い選手』には、凡人も互角に戦う事が出来る。

 

スターウォーズは空想だから、善が勝ち、悪が負けたわけではない。

ジョージ・ルーカス監督が、物事の本質を深く捉えて描いているから、映画に深みが生まれて、見る人たちがその深みにハマっているのだ。