もぐれない初心者 (3)

〜 飛び込みとターン 〜

2010.10.10

  

 

■ 飛び込むとゴーグルが外れる初心者

水流のコントロール方法について述べたので、ついでに、

『初心者が飛び込むと、なぜゴーグルが外れるのか?』

について、軽く触れておく。

 

ゴーグルが外れるのは、ゴーグルに水が引っかかるからだ。

水が引っかからなければ、ゴーグルは外れない。

 

上級者の飛び込みでは、頭の後ろに水が通るので、ゴーグルが外れない。

 

上級者の飛び込み

 

これは、『結果的に、ゴーグルが外れない』というだけで、『ゴーグルの都合』でこうしているわけではない。

 

【1】
『背中側に水流を通すと、体が潜る方向に力がかかる』事を利用して、適度な水深まで潜っている。

【2】
お腹側(顔の前)に水を通すと、体で水を上から押さえつける力がかかり(水面に浮上する力)、大きな抵抗が発生してしまって、失速してしまう。

背中側に水を通す事で、飛び込んだ勢いを出来るだけ殺さないようにしている。

 

という理由だ。

(もちろん、選手は理屈ではなく、感覚によって自然に動作しているだけ)

 

 

一方、初心者の場合、『腹打ち』する事からも分かるように、(多くの場合、恐怖心から)体の前面で水を受け止めて、無意識にブレーキをかけてスピードを殺そうとする。

 

初心者の飛び込み

 

飛び込みで勢いの付いた体が入水してくる時に、水が顔の前を流れるため、その高速の水流がゴーグルの出っ張りに引っかかって、外れる。

その証拠に、ゴーグルが帽子を取るようにして外れる事はほとんどなく、鼻や口の方に被るようにしてズレてしまい、ひどい時にはすっぽり首にかかってしまう。

 

そもそも、『お椀状の入水イメージ』からして、正しい入水イメージではない。

 

ただし、初心者が上級者のマネをしようとして、飛び込みで頭を突っ込むのは非常に危険だ。

頭を突っ込むと、頭の後ろに水が勢い良く流れて、ギューンッとプールの底へ引き込まれて頭をぶつけ、半身不随になる危険が非常に大きい

 

※※ 備考 ※※
選手ですら年に1回程度はスタートに失敗して、プールの底に手を着いたり、防御しきれずに胸を擦るような危ない経験をする。

選手は体で水の感覚を捉えられるから、体が『とっさの事態』を瞬間的に感じ、反射的に反応してプールの底に頭からぶつかるのを避けられるが、陸上生活の感覚で水中に入っている初心者の場合、『とっさの状況を示している水の感覚』を検知する事も出来ないし、緊急事態を検知できたとしても体が反応しない。

初心者のスタート練習に補助に入るコーチは、選手時代の自分の経験から、この危険性を初心者以上にリアルに感じていて、とっさの時には、飛び込んできた初心者の体の下に自分の手や足を出せるように、気を張って補助に入っている。
※※※※※※※※

 

水深を感覚で掴めない初心者は、水深が2M以上あるようなプールでしか、スタート練習をしない方が良い。

水深を理屈でしか捉えられないような初心者は、プールの底に足が着くような普通のプールで、スタート練習をしてはいけない。

 

『なぜゴーグルが外れるのか?』という知識欲を満たすだけにしておいてほしい。

 

 

■ ターン

ターンは、その『反転動作』の都合上、浅い位置に足を着く事になるため、これまで述べてきたような

『ジャンプして勢いを付けてから潜る作戦』

が使えない。

 

『潜れないと悩む初心者の感覚』からすれば、

逆立ちをするかのように、いきなり!頭を、すごく下!に突っ込む事』

に、恐怖心を感じてしまうせいで、水中スタートよりもターンで潜る方が難しい。

 

水中では、『陸上生活の感覚』を捨てろ!

 

初心者は『陸上生活の感覚』を使って、水中動作をしようとする。

 

陸上なら重力があるおかげで、

『ビルから飛び降りて死ぬ時、いつまでも頭を上にして、後からのんびりと下を向いても、頭から落っこちて死ねる』

が、擬似無重力空間である水中では、下に向かって意識的に勢いを付けなければ潜れない。

(水中にだって、もちろん重力はあるが、『(重力と反対向きにかかる)浮力』で相殺される)

 

『後から頭を下に向けよう』と思っても、水中では水の抵抗が大き過ぎて向けられない。

 

 

『勢いを付けるのが下手な初心者』が、『水の抵抗を押しのけて方向転換』をする事など不可能で、

初心者だからこそ、抵抗が発生する前に、(最初から)、行きたい方向に体を向ける必要がある。

 

陸上で逆立ちをして失敗すれば、地面に頭をぶつけて怪我をするかもしれないが、

水中で逆立ちに失敗しても、せいぜい鼻に水が入るくらいで、何の心配もいらない。

 

 

へっぴり腰のまま、自転車に乗ったり、スキーやスノーボードをするのは、上級者ですら難しい

事を思い出せば分かるように、

『初心者には、おおげさなくらいの思いきりが必要』で、

しかも水中なら、おおげさにやりすぎても、怪我をする心配はない。

 

ただ、『潜れないと悩んでいるレベルの初心者』が、ターンの練習をする必要はない。

 

理屈でターンにチャレンジする』よりも、

感覚で水中スタートできるようになる』方が先で、

水中スタートがうまく出来るようになれば、ターンで潜る方も勝手に出来るようになる。

 

水中スタートがうまく出来るようになって、『水中では水の感覚を使う』という事が、体で分かるようになれば、

『平泳ぎのひとかき-ひと蹴り』で説明している、『体を横に向ける事で、水の抵抗を避けてスムーズに潜る、ターンテクニック』といった理屈も、よく理解できるようになるはずだ。