腰痛 (2)

〜 脱力の難しさ 〜

2008.11.01

  

 

「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」

戦争では常道だ。

勝つ方法を探す前に、まずは戦う相手や、戦いに挑む自分を知る事が必勝の基礎であり、情報を掴めということだ。

そこで、まずは筋肉の性質を良く理解する必要がある。

運動には2種類のタイプがある。ボディビルダーのように重たい物を直線的に持ち上げるものと、速く走ったり泳いだりする時のように細やかで複雑な動きを要求されるものだ。

その2種類の運動には、それぞれ違った筋肉が必要になる。

馬で言えば、ボディビル的な運動は農耕馬であり、走ったりするのはサラブレッド(競走馬)だ。

腰痛には、重たい物を持ち上げたり、引っ張ったりする農耕馬的な筋肉は悪影響しかない。ぎっくり腰をやった時に分かるように、筋肉の緊張は腰痛を増す事になり、悪影響でしかないのだ。

腰痛対策に必要な筋肉は、サラブレッドのようなしなやかな筋肉であり、動きだ。

腰痛患者には筋肉を緩ませる「弛緩」が必要なのだ。「筋肉に緊張と弛緩のメリハリを付けて使える事」が必要なのだ。

ここで、見落としやすい筋肉の重要な性質があるので指摘しておく。

筋肉は、力を入れて緊張させる事は簡単だが、緩ませる方は非常に難しい

「力を抜くのは簡単だ」と思っているのは大間違いである。

筋肉は力を入れるための道具であり、力を抜くための道具ではない。そのため、力を抜く事は非常に苦手なのだ。

実際に床に寝てみると分かるが、力を抜いて寝転んだつもりでも、実際にはあちこちに微妙に力が入っている。そのままじーっと寝ているとだんだんと力が抜けてくるのが分かる。

意識がある状態で完全に脱力するのは非常に難しいのだ。

ましてや腰痛患者は、腰を守ろうとして普段から無意識にお腹周りに無駄に力を入れている。その無駄な力で硬くなった棒状の筋肉がボキッっと折れたのがぎっくり腰だ(医学的には筋膜が裂けるのかな)。

しなやかな動きは、重たい物を持ち上げても鍛えられない。重たい物を持ち上げるトレーニングを積めば、逆に「しなやかさ」はどんどん失われていく。

腹筋台での腹筋トレーニングのように、単調で直線的な動作をひたすら繰り返せば、筋肉は強くなるだろうが、しなやかな動きはどんどん失われていく。

腰痛患者は、

筋肉をしなやかに動かせる

ように鍛えなくてはいけないのだ。しなやかに動かすために必要な事が、筋肉の緊張と弛緩のメリハリの付け方だ。

腹筋トレーニングのような単調な上下運動は、「しなやかさ」と真逆の動作だ。

なぜなら、単調で、かつ、筋肉の得意とする「力を入れるだけのトレーニング」で、筋肉の苦手とする「力を抜くトレーニング」をまったくしていない動作だからだ。腰痛患者には、悪影響でしかない。

腰痛患者は、腹筋を強化するのではなく、「腹筋の使い方をトレーニングする」必要があるのだ。

「腹筋を使えるようになる」「しなやかな動作を出来るようになる」には、まずは、関節に余裕がなければならない。腰痛対策には、股関節が重要になる。