自由形 (7)

〜 スライド動作 〜

 

2011.07.30

  

 

■ 2軸泳法

『手を横に開き、ハイエルボーを作りながら肩を左右上下に揺らすS字式のローリング』は、完全に廃れた。

 

しかし、左右交互に手を動かすクロールの場合、I字ストロークにもローリング動作に似た動きがある。

肩甲骨を使って前後にスライド運動させる動きだ。

 

 

I字ストロークの軸

 

『ほふく前進』、あるいは、ワニやトカゲの動きをイメージすると分かりやすいが、

肩(肩甲骨)の動きを利用して水面を這うようにして胸をスライドする事で、前進移動に変換している。

 

2軸による推進イメージ

 

つまり、肩の軸上で一方の手を前に出し、その反作用で反対の手を抜くようにして引いてストロークする。

 

この『作用反作用的なストローク動作』のせいで、プルを引き始めるタイミングがS字ストロークの時代よりもワンテンポ遅く、現代のI字ストロークでは、両手が前で合わさるようなタイミングでストロークしている。

(呼吸動作もワンテンポ遅く、しかも小さく短い。そのせいか、100Mの短距離でもtwo/one呼吸を使う選手が増えた)

 

2000年シドニー五輪 イアン・ソープ選手

 

『両手で紙を握って、顔の前でビリっと破る動作』をイメージすると分かりやすいが、

I字ストロークを使うイアン・ソープ選手が、

『入水した右手を前』に出す動作と、『引っ張る左手』のタイミングで両手を押し開き、作用反作用的に力を利用してストロークしているのに対し、

(I字ストロークはこの時、最大加速して体が前方にスライド移動する。プールから上がる時の動作と同じだ)

 

写真奥に写っているS字ストロークを使う選手たちは、左手を引っ張っている時にはまだ、右手がリカバリーの真っ最中だ。

(S字ローリングをしているから、一方の肩が下がって水中プル動作を、もう一方の肩が上がってリカバリー動作をしているというのは自然な動き)

 

 

このI字ストローク動作は、ナンバ的な動きと考えて間違いない。

※ 備 ※
『ナンバ走り』の『ナンバ』。

かなりアバウトに言えば、西洋式走法が手と足を反対に出して中心クロス軸で走るのに対し、ナンバ走法では、右手右足の同じ手足が前後する走り方。

古武術など、たくさんの本が出ているので、自分で読むなり、ネットで検索して勉強してください。
※※※※※

 

『頭から背骨を通る中心軸1軸』に対比して、『両肩に通る2軸』を指して、2軸泳法とも呼ばれる。

ただし、"2軸"泳法という呼び名には、現役選手が持つ動作感覚から少しズレている面があるようで、2軸泳法というネーミング自体には良し悪しがあるが、『中心1軸ではない』という意味では、2軸泳法という呼び名も悪くはない。

(私自身は平泳ぎ以外は遅いので、この辺りの感覚はなんとも言えない)

 

ネーミングの良し悪しは別にして、I字ストロークでは、S字ストロークの上下ローリングを前後運動に変換し、より効率的な動きに変えてしまった所が優れている。

(結果的に、中心1軸S字ストロークの時代よりも、現在の方が中心軸のブレが少ない。世の中は逆説的に出来ている所が、おもしろい)

 

 

■ 肩の感覚に特徴があるI字ストローク

S字ストロークが身に付いてしまっている人ほど、

『なんだよ。理屈のコネ方が違うだけで、2軸泳法だろうと、動作感覚はS字ストロークと同じじゃねーのか?』

という気がする。

 

平泳ぎが専門の私の動作感覚を述べても、役に立たない所もなくはないのだが、平泳ぎのプル動作を応用したストローク感覚を述べると、

『肩の使い方がまったく違う。肩をロックするS字ストロークと、肩をゴム状に外すI字ストローク

という感覚の違いがある。

 

I字ストロークの肩の感覚イメージ

 

肩の所を上から押したとすれば、肩が反対側(プールの底側)までへこんでしまうような、しなやかな感覚、かつ、ダイナミックな腕の動きが、I字ストロークでは特徴的だ。

肩がゴム状に沈むと、結果的(相対的)に肘の位置が高くなり、腕がハイエルボーに似た形になる。

 

 

この動作は、その動作感覚までもがS字ローリングと少し似ているが、

『ロックされた肩と一緒に腕が水中に沈みこんでいたS字ローリング』と違い、肩も腕も沈み込んでいかない。

『ゴム状にリラックスした肩』と腕の間で、ローリング動作を吸収し、肘を前に押し出していく動きへ変換する。

 

前に押し出された肘を、ゴムが引き戻される勢いを利用してまっすぐ引くと、I字ストロークになるし、

この『肩から背中にかけての感覚』がうまく掴めると、ミゾオチに下半身がぶら下がって泳いでいる感覚を感じる。

(もちろん、平泳ぎのプルにも、この感覚がある。泳ぎのベースは、4種目共通)

 

 

 

この肩の感覚を文字で表現すると難解になってしまうが、

『ちょっと高いスタート台の上に上がる時、肩を外すような感覚で手を伸ばして勢いを付けると、うまく上がれる』

時の感覚と似ている。

 

 

『肩の位置はそのままに、体全体を押し下げる事で、逆により高い所へ、素早く上がれる』

のは、つまり、

『より前に、より速く進みたければ、前に伸びるのではなく、後ろに押し下がる。押し下がると逆に(反作用的に)、前に出れる』

という泳ぎの動作と、まったく同じだ。