自由形 (6) 〜 ローリングの無駄 〜
2011.07.30 |
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体に中心軸を作って、その軸を中心にしてローリングしていた、あの『ローリング技術』も廃れた。
中心軸を使ったローリング動作は、 【1】 ストローク長が短い(泳ぎが小さい) 【2】 抵抗を発生させる といったデメリットが大きいため、廃れた。
■ ストローク長の違い
パッと見て分かるように、S字ストロークは、 『肩甲骨を寄せて肩をロックしている』 『動作支点の腰を中心に体をねじり、しかも、モーターボート泳法でエビ反っている』 ために、ストローク長が短く(泳ぎが小さく)、『力のベクトルが斜め上』に向たまま泳いでいるせいで上下動が生まれる。
この『体のネジリ』で、S字に開く動作のバランスを取っていて、かつ、あの懐かしい『肘から先だけを折り曲げてくるハイエルボー動作』を行っている。
一方、I字ストロークの場合は、 『肩をロックせずにミゾオチから前後に押し伸びている』 ために、ストローク長が長い上に、泳ぎが水面に対してフラットであり、『力のベクトルが前方』に向いていて、より効率的な泳ぎになっている。
『表面的な外見』の特徴としては、 1980年代の常識だった『キックの打ち込みが、入水した手と反対(右 - 左)』が廃れ、 2008年北京五輪では、『キックの打ち込みは、入水した手と同じ(右 - 右)』になっている。
2008年北京五輪 200M自由形準決勝
ただし、この『キックの打ち込み方の違い』は、『身体内部の使い方の違いが表面に現れた結果』でしかない。 つまり、『右手入水 - 右足キック』をマネただけでは、速くはならない。
もう少し具体的に言えば、 『S字ストロークの姿勢や動作をしたまま、キックの打ち込みタイミングを反対にしただけでは、速くならない。それどころか、きっと遅くなる』 実際、水泳初心者もI字ストロークと同じ『右 - 右』方式を使っているが、すごく遅い。
人生において、偉人の生き方(生き様)をマネる事には意味があっても、偉人のやった結果をマネようとするのは無意味で無価値であるのと同様に、 『肩甲骨や肩の使い方』や『ミゾオチ支点の泳ぎ』といった筋肉の動かし方を真似なければ、表面動作をマネても、まったく意味がない。
■ S字ローリングの抵抗 S字ローリングのストローク長が短い問題は、ピッチを上げてストローク数を増やす事で回避できなくもないが、抵抗の問題は、解決しがたい。
ローリング抵抗の問題は、洗濯機を思い出せばすぐに分かる。
ローリング = 抵抗
洗濯物を洗うみたいに洗濯槽を水流の中でローリング回転させれば、まっすぐ流れてくる水流を乱し、抵抗になる事は容易にイメージできるはずだ。
こんな当たり前の事をイメージできず、むしろ、 『ローリングで推進力を生み出し、加速する』 というブッ飛び思考が生まれた原因は、1980年代に目指した泳ぎが『モーターボート泳法』であった事に起因する。
モーターボートがスクリューを回転させて、水面を高速に移動できるのは事実だが、彼らは機械だ。 人間に、あんな高速回転は不可能だ。 実際、人間より速く泳げる魚でさえ、回転やローリングしながら泳ぐ魚なんていない。
それにモーターボートだって、航行スピード以上にスクリューを高速回転させているから進むだけで、 高速航行中に、スクリューの回転を遅くすれば、スクリューの羽根に水がぶつかり、抵抗の方が相対的に大きくなって、急減速してしまう。
100歩以上譲って、S字ローリングが推進力を生むのだとしても、モーターボートのスクリューは、同じ方向に高速回転しているだけで、効率の悪い左右交互ローリングなんてしていない。 だって、洗濯槽が反転する時、水流がものすごく乱れるのを見れば分かるように、汚れを落すには都合が良くても、スピードを出そうとしている時に水流の乱れ(抵抗)は邪魔でしょ。
そもそも、スクリューで進むモーターボートだって、船体はロールなんてさせてないし、戦闘機を思い出せば分かるように、高速になればなるほど、船体(機体)はむしろフラットに安定させなければ、抵抗が大きく発生してしまう。
※ 備 ※ 体の大きい人間サイズには無視出来る『水の表面張力のような小さな力の影響』が、体の小さい微生物の世界では、相対的に大きくなって無視できなくなる。 人間にはサラサラのように感じる水も、微生物にとってはローションのようにベトベトまとわり付くものになるため、回転式の推進方法を採用する者が出てくる。 詳細は、『べん毛モーター』のようなキーワードで、自分でググって。
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