自由形 (1)

〜 S字ストローク時代の終焉 〜

 

2011.07.20

  

 

■ S字ストロークは使われなくなった

モーターボート姿勢で泳ぐ『中心1軸S字ストローク』は、完全に廃れた。

過去には『絶対的な常識』であったこの『S字式の泳ぎ方』は、現在、『典型的な悪い例』として例示されるほど、すっかり廃れた。

 

モーターボート泳法のように腰をエビ反って胸を前方に突き出すような姿勢は、もう使われていないし、

頭の後ろで手を組むようにして肩甲骨を寄せて絞りあげ、肩関節をロックするようなストリームライン姿勢も使われてないし、

体の中心に作った中心軸でローリングする事もないし、

S字にストロークする事もないから、ハイエルボーも廃れたし、

フィニッシュ!で強く押し出して加速する事もない。

リカバリーで肘を曲げる必要性もない。

 

 

21世紀版のクロールは、

モーターボート泳法の代わりに、猫背にするようにして背中側を水平に保ち、

両耳を腕で挟むようにして肩甲骨を開き、肩関節をゴムのように緩ませたストリームライン姿勢を使って、

ローリングの代わりに、肩甲骨を使って両肩の軸を交互に前後させ、水面を這うようにストロークし、

手は肩幅でまっすぐ引っ張り(ストレートストローク)、

その引っ張り方は、肘を後ろに抜くようにして引っ張って

ストロークの終盤は腰の所で抜いて、『フィニッシュ!加速』はしないし、

リカバリーは、自分のやりやすいように戻せばよい。

(肘を伸ばして戻す方式は、ストレートアームと呼ばれている)

 

 

中心1軸S字ストロークの全盛期時代である1984年当時に、100M自由形で49.36の世界記録を持っていたローディ・ゲインズさんの泳ぎと、21世紀の泳ぎを見比べると、違いが良く分かる。

 

 
1984年ロス五輪
 金メダリスト
(ローディ・ゲインズ)

 
2008北京五輪
200M準決勝
(真中はマイケル・フェルプス)

 

2008年方式『肘からヘソ付近にかけて、力が丸め込まれていくような泳ぎ方』を見慣れてしまうと、

1984年方式の中心1軸S字ストロークは、『体の外側に向かって間延びしていて、体内の力が外に逃げている』様子がはっきり分かる。

 

1984年の方の水中写真はレース映像ではないとはいえ、

・ ゲインズ スタート(現在、最も使われているクラウチング式のスタート方法)
・ ゲインズ スピンターンクィックターンはこちらで解説

を開発した超一流選手の泳ぎとは思えないほどの『間延び具合』だ。

 

現代の泳ぎを見慣れた目で、1984年ロス五輪の泳ぎを見ると、1984年当時全員が、

・ スタートがヘタ(腹打ち気味)
・ モーターボート泳法のせいで、体が立っていて、上下動が大きい
・ フィニッシュ!加速方式(ストローク終盤加速方式)のせいで、泳ぎが小さい

といった具合に、

『これは、全中かインターハイの映像じゃないの? あの当時はなんで、良い泳ぎに見えたのかが不思議』

に感じてしまうほど、クロールがヘタクソだ。

 

 

逆に言うと、こんなヘタクソな泳ぎ方で49秒前半で泳いでしまうのだから、やはりスゴイ!

 

※ 備 ※
1984年当時の日本記録は、ゲインズさんの世界記録から3秒も遅い52.24だから、ゲインズさんの49秒がいかにすごいか分かるでしょ。

1984年の日本記録保持者である緒方茂生さんは、中学3年生で100M〜1500M自由形のすべてで日本記録を樹立し、『古橋広之進以来の快挙』を達成、怪物と言われたほどの方です。

(ちなみに当時は、50Mという競技はありません。800Mは、1500M競技のない女子だけ)

この時の日本記録は中学記録として長らく残り、緒方さんが保持していた最後の中学記録200M自由形にいたっては、2008年に小堀勇気くんに破られるまで、実に25年間も保持された。

しかも、2008年というのは、レーザーレーサーの高速水着時代ですよ!

そんな怪物の記録より、モーターボート式S字ストロークで3秒も速く泳いじゃうわけですから、ゲインズさんがどんだけすごいか・・・・
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