理想ペース配分理論 (2)

〜 ピッチとペースの関係 〜

高橋 大和
2009.12.10

  

 

■ 理想のピッチとは何か?

理想のピッチ = 理想のペース

 

理想のピッチで泳げれば、それはおおよそ、理想のペース配分といえる。

 

理想のピッチを、もう少し細かい視点で考えてみる。

『1ストロークした後』
『次のストロークを開始する』

これの繰り返しが、ピッチであり、ストローク数に繋がる。

 

『次のストロークを開始するまで、どれだけの時間を空けるかの差』

が、おおよそピッチの違いになる。

 

平泳ぎなら、

『次のストロークを開始するまでに、どれくらいの時間、ストリームライン姿勢をとるかの差』

が、おおよそピッチの違いになる。

 

次のストロークを開始する理想のタイミングを考えてみると

 

【1】
加速後の伸びの姿勢を取っていると、水の抵抗で徐々に減速してくる。

【2】
次のストロークで、同様の速度まで加速できるギリギリまで、伸びの姿勢を維持する。

【3】
『これ以上、伸びていると、再加速できなくなる直前』に、次のストロークを開始する。

 

のが、『疲労を最小限にしつつ、速く泳げる』、理想のピッチだ。

 

もし、ピッチを上げすぎると、スピードは維持できるが、その分疲労し、後半失速する。

 

『スピードを維持ではなく、スピードが出る』ではないのか?

という風に思うかもしれないが、確かに、ピッチが適度に早ければスピードは出る。

 

しかし、スピードが速い状態で次のストロークを開始すると、

「抵抗は、速度の2乗倍で大きくなる」

と言われているので、水の抵抗が大きい分、うまく加速できない。

 

つまり、速過ぎる泳速は、加速効率が悪くなる(当然、エネルギー効率も悪い)

 

 

『泳速が速いほど、水の抵抗が強くなって、加速率が悪くなる』

からと言って、あまりに伸びる時間を取りすぎると、今度は、次のストロークでうまく加速できなくなる。

 

『止まっている状態から加速すには大きな力がいるが(例えば、ターンで足が届かなかった時など)、動いている状態から加速するのは簡単』

という、『慣性の法則』の影響を大きく受けるようになるためだ。

 

つまり、『速い泳速による抵抗』と『遅すぎる泳速による慣性』の間にある『ほど良いピッチ』が、ベストなピッチとなる。

 

 

■ 『理想のピッチ』を求める方法

これがもし学者なら、

『エンジン出力に応じた、ベストな加速/減速タイミングを割り出し、数値表として示そう』

とする事だろう。

 

しかし、スパコンでシュミレーションをしなければ分からないような、そんな高等な脳みそは、凡人にはない。

われわれ選手にとって、そんな学問上の数字の羅列は意味が無いに等しい。

 

でも、安心して欲しい。

一流企業には見向きもされない三流大学出の凡才の私の頭でも、簡単に割り出す事が出来る。

理想のピッチは、『ずば抜けて繊細に研ぎ澄まされている感覚を使って泳いでいる、一流選手』のマネをすれば良い。

 

世界と戦える泳ぎを作りだせるトップ選手の感覚から割り出したピッチなら、理想のピッチに限りなく近いのは、間違いない。

2009年現在の平泳ぎであれば、北京五輪の北島康介選手の感覚が世界一であるのは間違いないはずだ。

 

ただし、北島康介選手のストローク数が

100M平泳ぎ : 16 - 20
200M平泳ぎ : 14 - 14 - 15 -18

だからといって、北島選手よりずっと遅いわれわれが、同じストローク数で泳いで良いはずがない。

 

北島選手より遅いわれわれは、低出力エンジンしか持っていないわけだ。

低出力エンジンで泳ぐわれわれが、北島選手と同じ伸びを取っていれば、ピッチが遅すぎて失速してしまう。

低出力エンジンには、低出力エンジンに合った回転数(ピッチ)があるわけだ。

 

『自分が持っているエンジンの出力』は、全力で泳いだレースのゴールタイムから割り出した『泳速』となって現れる。

距離 ÷ 時間 = 速度

距離をゴールタイムで割れば、平均泳速が出る。

 

北島康介選手のピッチを、エンジン出力(ゴールタイム。平均泳速)に応じて比例計算すれば、その人の理想ピッチが求められる。

(正確には、ストローク数を比例計算しているのではなく、ストローク長を求めて、ストローク長を比例計算させて、ストローク長を元にストローク数を求めている)

 

 

■ 理想ピッチ表の本質的な見方

割り出した理想のピッチで泳ぎきれれば、それは、

『北島選手より遅くしか泳げなくとも、北島康介選手と同レベルのペース配分が出来た』

事を意味している。

 

つまり、ゴールタイムが速い/遅いは、泳ぎの技術的なテクニックが一番影響するため、北島康介選手と同じタイムを出せる選手は限られてしまう。

場合によっては、生まれた時に能力のベースは、すでに決まってしまっていて、どんなに磨きをかけても、北島選手のゴールタイム(世界記録)には追いつけない事もある。

 

ゴールタイムを見比べるだけで、レベルの上下を競うのなら、大企業病に犯されて、社員のやる気を捉えるような目には見えない視点が持てなくなり、『能力主義』とは名ばかりで、単に目に見えるうわべの数字だけで捉えた『結果主義』を導入した結果、会社をさらに傾けてしまうのと同じで、次元の低いつまらない争いだ。

真の競技は、結果だけを競うものではない。

結果を含めた、プロセス(過程)を問うものだ。

 

もし、自分のベストタイムレースが、理想ストローク数表と一致したストローク数で泳げているのなら、それは、世界で戦った北島康介選手と同等レベルのレース展開ができた事を意味し、素直に喜ぶべき事だ。

(もちろん、『心理戦』といったような面は含まれず、単に『ペース配分』という面だけで比較した時のレベルの話)

たとえゴールタイムが、北島選手よりもずっとずっと遅くとも、それは、テクニック面で負けているだけの事で、レースのペース配分としては、世界と戦っても恥ずべきレースではなかったという事だ。

なぜなら、そのストローク数は、北島康介選手のレース展開を元に、ゴールタイム(その人の持っている技術的能力)で比例させた数値だからだ。

 

ペース配分の面に関しては、

『その時点の自分の能力を十分発揮出来た』

と胸を張れる。

『レース展開は合格。これからは、もっとテクニック面を磨いていこう。』

と目標を持つ事ができる。

 

その基準になるものが、最初に示した理想ストローク数の表だ。