学校水泳 (6) 〜 背泳ぎのキック練習 2 〜 高橋大和 |
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両手を上にした背面浮きが出来るようになったら、ここでやっと「キックの推進力」を得る訓練に入る。
キックから推進力を得る訓練(結果的に浮力も手に入る)は、 1. 壁キック の順に進める。 (訓練の「3」は、もっとずっと前から訓練していても良い。背泳ぎのキックが完成するまでには、おおよそ出来るようになっていれば良い)
泳げない子は、手足を大きく曲げて動かし、まるで"溺れるタコ"かのようにクネクネと、泳ぐには非合理的な動きをしてくるので、指導の全体的な方向としては、手足をピーン伸ばし、小さく動くように指導していく。
泳げない子が手足を大きく動かすのは、陸上で地面や壁から得られる反発力と同じ原理を、そのまま水中に持ち込んでくるからだ。
例えば、怪我か何かで足がうまく動かせない状態になったとしても、陸上なら、上半身の力で無理やりにでも起き上がる事は可能だ。 同様に、泳げない子は、水中で「うまく進めない」「息継ぎが出来ない」ので、無理やりにでも水を押して、どうにかしようとするのだ。
しかし、水は地面や壁のように強い反発力は得られないため、手足の動作が勢いよくスッポ抜けるわけだ。
泳ぎの達者な者であれば、スカーリング技術によって水からの反発力をそれなりに得る事ができるが、泳げない子にそんなテクニックはない。 泳げない子はスカーリング技術を持たないにもかかわらず、反発力を得る動作で泳ごうとした結果、水中からは反発力が得られない代わりに、自分の動作から発生した「反動」でジタバタした動きしかできない。
宇宙飛行士の地上訓練で、宇宙服を着てプールに潜って訓練を行う事からしても分かるように、水中は擬似無重力空間だ。 無重力空間と同じような動作が、水中では求められる。
宇宙空間では、手足をバタバタさせてもスッポ抜けてしまい、その動作から発生する反動が体に伝わって、体がクルクル回ってしまう。 宇宙空間では、「手足の動作の反動」が発生するような素早い動きは押さえ、反動が発生しないようにゆっくりとしたソフトな動作が必要だ。
つまり、泳げない子は、じっとしていれば浮いていられるのに、余計な動きをしたがためにすっぽ抜けて、沈んでいってしまうわけだ。 水中で推進力を得るためには、この余計な動作を止めさせる必要がある。
そのために、手も足もピーンと伸ばした動作を強制し、泳ぎを矯正する。 キックの場合、最も効果的なのがプールサイドに座り、足をピーンと伸ばして、キックを練習させる事だ。
図 6-1
競泳選手は、膝などの関節はリラックスして緩ませ、シナる動作から大きな推進力を得ているが、泳げない子には、そんな中途半端な動作は出来るはずがないので、”妥協のないピーンと伸ばした極端なキック”を強制する。
実際に関節を完全固定して泳ぐと、ギッコンバッタンしたおかしな泳ぎになるが、泳げない子にはその心配はない。 本人がピーンと伸ばしたつもりになってやっても、泳げない子が水中で、ピーンと伸ばして動作できるはずがない。 自分の思ったとおりに体が動かせないから泳げないわけで、自分ではピーンと伸ばしたつもりでも、おそらく、「曲げ過ぎ」というほど曲げてくるはずだ。
したがって、実際の動作ではあり得ない、 「足の付け根から、膝、足首、足の指まで」 を完全に棒状に伸ばさせてキックの練習をさせる事が重要だ。
学校ではこの壁キック訓練を、おそらくかなり初期段階で練習させていると思う。 壁キックをまっ先に教えて、手足を伸ばす訓練をする事は悪い事ではないが、「進む事」を「浮く事」の前に教えてもあまり効果はない。
泳げる子や器用な子は、どう教えてもおおよそ上達していくが、運動音痴の不器用な子は、 「浮く」 -> 「進む」 -> 「息継ぎ」 -> 「泳げる」 という筋道に沿った訓練でなければ、なかなか上達しない。
なぜなら、浮く事すらできない子が、手足を伸ばして進むイメージを持つ事が出来るはずもなく、訓練の効果をイメージしたり、実感できないのに、いくら強制的に訓練させても、本人には手足を伸ばす意味が分からないため、訓練の効果が出てこない。
それよりも、「浮く事」が出来るようになって、進むイメージが自分で出来るようになった後に教える方が、より効果的である。
この壁キック練習で、しっかり足を伸ばして動かせるようなったら、ビート板を持たせてプールに入り、クロールのキック練習をさせる。 しっかり足を伸ばして打てるのなら、ガンガン全力でビート板キックを打たせる。
泳げないブキッチョな子は、25Mも全力で蹴り続ける事は難しいので、プールの真ん中までで十分だ。 この「全力でキックする」事は、「足を伸ばして小さく動かせば進む」事を体に教える意味がある。
「陸上のように大きく動かせば、泳げるようになるわけではない」 事を体感として感じさせる意味があるので、「しっかり足を伸ばしたキック」である事が重要だ。
子供が「全力」に気を取られて、足の付け根、膝、足首を大きく曲げて蹴っていてはまったく意味がなく、逆効果になるので、その点に注意して指導する。
念のために指摘しておくが、「クロールのキックの次は、クロール」とか「背泳ぎのキックの次は、背泳ぎ」といった 「指導する側の視点から見た、シンプルな流れ」 は、教わる側にはまったく役に立たない。
指導は、 「教わる側の視点から見て、シンプルな流れ」 である必要がある。
したがって、 「今まで背泳ぎの訓練だったのに、なぜ次がクロールのキックなのか?コロコロと指導方針が変わっているじゃないか?」 なんてとぼけた疑問は必要ない。
今ままでは「浮き」の訓練をしてきて、 「浮く訓練には、背面浮きが最適だった」 のであり、 「浮いた姿勢にキックの推進力を加えるための訓練に、ビート板を持った(クロールの)キック練習が最適」 なだけだ。
「それぞれの目的に合った最善の訓練方法が、提供されてくる」 事が、教わる側には重要だ。
足を伸ばしてキックを打てるようになれば、いよいよ背泳ぎのキックが完成する。
ただ、キックで推進力を得られるようになると、頭で切る水が顔にかぶる時が出てる。 「その場にじっと浮く背面浮き」では、鼻から息を吐けなくても、顔に水が一切かからないので問題なかったが、背泳ぎのキックが出来るようになるためには、顔が上を向いている状態に水がかかっても鼻に水が入らないようにしなければならない。
泳ぎの達者な人が上を向いていても鼻に水が入らないのは、鼻から息を出しているからだ。
泳ぎの達者な者なら、顔に水がかかる瞬間に無意識で鼻から息を出して、水が入ってこないように出来るが、泳げない子の多くは、意識しても鼻から息をなかなか出せない。 鼻から息を出す訓練は、この段階になる前から水泳の授業のたびに練習させておくのが良い。
練習方法は、 ・浮いた姿勢で鼻から息を出したり、 する(息を吐けば、肺の浮き袋が小さくなるので、だんだん体が沈んでいく)。
図 6-2
出来れば水中に寝転んで鼻から息を出して、水が入ってこないレベルまでいければベストだ。
大切なのは、鼻から徐々に(一定の速度で)息を吐けるよう、子供が自分でコントロールできるようになる事だ。
ここまでくれば、背泳ぎのキックはすでに完成しているも同然だ。
次項では、いよいよ背泳ぎのキックを完成させる。
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