学校水泳 (4) 〜 背面浮き 補助の入れ方 〜 高橋大和 |
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泳げない子は、恐怖心から体を丸める。
つまり、泳げない理由には、 1. 「恐怖心」という心理面 の2つの要素がある。
どんな事でも同様だが、本質(根本)を捉えて、表面にアプローチしていかなければ物事はうまくいないため、本質を正しく認識する事は重要だ。
この2つの要素は、お互い相関関係にあって、 「恐怖心を取り除けば水中で体を伸ばす事が出来るし、体を伸ばせれば浮きやすくなる(沈みにくくなる)ので恐怖心も小さくなる。」 相関関係にあるので、心理面から攻めるか、技術面から攻めるかは、「鶏と卵」の関係ではあるのだが、動物の仕組みから考えれば、技術面よりも心理面の方が"より根本部分"にある。
つまり、 「心理的な不安を取り除ければ、技術面にアプローチが掛けやすくなる」 という事だ。
指導者は、単に技術的な事だけを教えればよいのではない。 「技術面にアプローチをかけるために、相手の心理面にまで踏み込み、利用する必要がある。」 その点を忘れてはいけない。
従って、泳げない子の背面浮きでは、当初、大きな力で補助を入れて、安心感をしっかり持たせる必要がある。 「大丈夫だよ。先生がしっかりサポートするから、溺れる事はないよ」 と。そこから慣らして、だんだんと小さい補助へと移行していく。
図 4-1
泳げない子は当初、体を丸めているので、指導者は子供の横について、お尻の下に手を入れ、お尻を水面まで押し上げる。 (子供の手は、腰横に自然と置いておくだけでよい) すると、図の(1)を見て分かるとおり、「腹筋トレーニング」そのままの姿勢だ。
水面から出てしまったこんな姿勢では不安定な上に、きつくてたまらない。ましてや運動音痴の子供の腹筋では、こんな姿勢は、30秒と持たないはずだ。 「嫌だ」と言ったって、辛くて体を伸ばさざるを得なくなる。
子供には 「体を伸ばして、ギリギリまで水面に頭をつけるように」 と言い聞かせれば、あっという間に体を伸ばしてくる。
こうなれば体はもう、かなり水に浮ける状態になっている。
この現象をさらに深く分析してみると、泳げない子に共通の重要な要素がある。 それは、 「恐怖心が無意識に体に力を入れさせ、体をガチガチにさせている」 という事だ。
「水中では、力を抜けば浮きやすいが、力を入れると沈みやすい」 という基本と逆の動きを、泳げない子はしている。
「泳げない子の恐怖心を取り除く」という心理面は、「水中では力を抜かせる」という技術面に繋がっている事を認識し、 「力を入れて、棒状に体をまっすぐさせるのではなく、布団に寝るがの如くリラックスさせた結果、体を伸ばさせる」 ように注意しなければならない。
お尻から腰へと補助を入れる場所を上げていき、図の(2)の状態になれば、天秤の感覚で分かる事だが、ミゾオチの裏(背中側)あたりに、指数本で補助を入れる(お尻からミゾオチへ徐々に補助の位置を変えていく)。 それで、十分に浮ける。
子供には 「足も伸ばして。なるだけ水面にまっすぐになるように寝て。胸を突き出して、おへそも、グーンと上に突き上げて」 と声をかける。
この時、子供は呼吸を確保したいがために、アゴを上に突き出すような姿勢を取りがちだが、水面にまっすぐになるためには、アゴは引く必要がある。 「引く」といっても、引き方があって、下を向くのではない。文字で書くのは難しいのだが、お笑いタレントのオードリー春日のような胸の張り方と引き方だ。
下を向いたり、肩をすくめるのではなく、胸を前に出す反作用で頭をまっすぐ後ろに引くような感じだ。
ここまでで子供は、水の浮力を、理論ではなく、体感として理解できるようになり、水の中では浮力を利用すればよい事を、体が覚え始める。 (3)の状態まで体が伸びると、もうほとんど補助なしで浮ける。姿勢を正す意味でも、肩甲骨の間辺りに指一本で補助を入れる。
子供には 「出来るだけ、指に触れないように。指から逃げるように」 と声をかける。 そして、徐々にその指を離していく。
ただ、ちょっと難しい事に、(2)から(3)へは、(1)から(2)へ進化するよりも多少てこずる子が多いはずだ。 その時には、子供の頭側に移動して、補助に入る。
図 4-2
頭側から入って、子供の肩(上腕)を横から掴み、胸を割るような感じで押し広げてあげると良い。
文字で表現するのは難しいのだが、親指を子供の肩の窪みに入れ、残りの指4本を子供の肩甲骨の下に入れて、胸を割る感じだ。出来る人は少ないだろうが、りんごを手で割るような感じだ。 (子供から見れば、胸を突き出し、肩甲骨を寄せる感じになる)
この補助を入れていれば、子供は肩の部分に支えが出来るので、肩を支点にしてテコの原理によって、足の指先までまっすぐ伸ばして水面にまっすぐ寝れるはずだ。 こうして出来た背面浮きの姿勢が、4種目共通の「泳ぐ基本姿勢」だ。 (厳密には、競泳選手として泳ぐ時の姿勢とは若干違います。近年の競泳選手は、若干猫背気味を基本姿勢にしています。が、ここでは、初心者にどう指導するかが話の趣旨ですので、その矛盾については理解する必要はありません)
まだ小さかったり、多少器用な子ならプッカーとずっと浮いたままになる。 ただ、完璧に浮けなくても良い。 初心者が泳げるようになるレベルでは、おおよそ浮けるようになれば十分だ。
実際に泳ぐ時にはスピードが出ているため、そのスピードから浮力が得られるし(飛行機がある程度加速すると浮くのと同じ)、軽いキックを打つ事でも浮力は得られるからだ。
また、図 4-2のような頭側から補助をいれる方法は、かなり体をしっかりサポートする事が出来るので、子供の両肩を掴んでゆっくりと引っ張りながら、左右にゆらゆらとゆすってあげて、力を抜く訓練にも利用できる。
体を左右にゆっくり揺すりながら、水面をゆっくり引っ張りまわして 「水の上に浮くのは気持ちいいなぁ」 と感じさせる事にも利用して欲しい。
「怖い」という気持ちが、出来なくしている一番"根の深い"原因なので、その心理を見抜いてあげて、うまく心に補助を入れてあげて欲しい。
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