学校水泳 (4)

〜 背面浮き 補助の入れ方 〜

高橋大和
2009.08.20

 

 

泳げない子は、恐怖心から体を丸める。

 

つまり、泳げない理由には、

1. 「恐怖心」という心理面
2. 「体を丸める」という技術面

の2つの要素がある。

 

どんな事でも同様だが、本質(根本)を捉えて、表面にアプローチしていかなければ物事はうまくいないため、本質を正しく認識する事は重要だ。

 

この2つの要素は、お互い相関関係にあって、

「恐怖心を取り除けば水中で体を伸ばす事が出来るし、体を伸ばせれば浮きやすくなる(沈みにくくなる)ので恐怖心も小さくなる。」

相関関係にあるので、心理面から攻めるか、技術面から攻めるかは、「鶏と卵」の関係ではあるのだが、動物の仕組みから考えれば、技術面よりも心理面の方が"より根本部分"にある。

 

つまり、

「心理的な不安を取り除ければ、技術面にアプローチが掛けやすくなる」

という事だ。

 

指導者は、単に技術的な事だけを教えればよいのではない。

「技術面にアプローチをかけるために、相手の心理面にまで踏み込み、利用する必要がある。」

その点を忘れてはいけない。

 

従って、泳げない子の背面浮きでは、当初、大きな力で補助を入れて、安心感をしっかり持たせる必要がある。

「大丈夫だよ。先生がしっかりサポートするから、溺れる事はないよ」

と。そこから慣らして、だんだんと小さい補助へと移行していく。

 

図 4-1

 

泳げない子は当初、体を丸めているので、指導者は子供の横について、お尻の下に手を入れ、お尻を水面まで押し上げる。

(子供の手は、腰横に自然と置いておくだけでよい)

すると、図の(1)を見て分かるとおり、「腹筋トレーニング」そのままの姿勢だ。

 

水面から出てしまったこんな姿勢では不安定な上に、きつくてたまらない。ましてや運動音痴の子供の腹筋では、こんな姿勢は、30秒と持たないはずだ。

「嫌だ」と言ったって、辛くて体を伸ばさざるを得なくなる。

 

子供には

「体を伸ばして、ギリギリまで水面に頭をつけるように」

と言い聞かせれば、あっという間に体を伸ばしてくる。

 

こうなれば体はもう、かなり水に浮ける状態になっている。

 

この現象をさらに深く分析してみると、泳げない子に共通の重要な要素がある。

それは、

「恐怖心が無意識に体に力を入れさせ、体をガチガチにさせている」

という事だ。

 

水中では、力を抜けば浮きやすいが、力を入れると沈みやすい

という基本と逆の動きを、泳げない子はしている。

 

「泳げない子の恐怖心を取り除く」という心理面は、「水中では力を抜かせる」という技術面に繋がっている事を認識し、

力を入れて、棒状に体をまっすぐさせるのではなく、布団に寝るがの如くリラックスさせた結果、体を伸ばさせる

ように注意しなければならない。

 

お尻から腰へと補助を入れる場所を上げていき、図の(2)の状態になれば、天秤の感覚で分かる事だが、ミゾオチの裏(背中側)あたりに、指数本で補助を入れる(お尻からミゾオチへ徐々に補助の位置を変えていく)。

それで、十分に浮ける。

 

子供には

「足も伸ばして。なるだけ水面にまっすぐになるように寝て。胸を突き出して、おへそも、グーンと上に突き上げて」

と声をかける。

 

この時、子供は呼吸を確保したいがために、アゴを上に突き出すような姿勢を取りがちだが、水面にまっすぐになるためには、アゴは引く必要がある。

「引く」といっても、引き方があって、下を向くのではない。文字で書くのは難しいのだが、お笑いタレントのオードリー春日のような胸の張り方と引き方だ。

 

 

下を向いたり、肩をすくめるのではなく、胸を前に出す反作用で頭をまっすぐ後ろに引くような感じだ。

 

ここまでで子供は、水の浮力を、理論ではなく、体感として理解できるようになり、水の中では浮力を利用すればよい事を、体が覚え始める。

(3)の状態まで体が伸びると、もうほとんど補助なしで浮ける。姿勢を正す意味でも、肩甲骨の間辺りに指一本で補助を入れる。

 

子供には

「出来るだけ、指に触れないように。指から逃げるように」

と声をかける。

そして、徐々にその指を離していく。

 

ただ、ちょっと難しい事に、(2)から(3)へは、(1)から(2)へ進化するよりも多少てこずる子が多いはずだ。

その時には、子供の頭側に移動して、補助に入る。

 

図 4-2

 

頭側から入って、子供の肩(上腕)を横から掴み、胸を割るような感じで押し広げてあげると良い。

 

文字で表現するのは難しいのだが、親指を子供の肩の窪みに入れ、残りの指4本を子供の肩甲骨の下に入れて、胸を割る感じだ。出来る人は少ないだろうが、りんごを手で割るような感じだ。

(子供から見れば、胸を突き出し、肩甲骨を寄せる感じになる)

 

この補助を入れていれば、子供は肩の部分に支えが出来るので、肩を支点にしてテコの原理によって、足の指先までまっすぐ伸ばして水面にまっすぐ寝れるはずだ。

こうして出来た背面浮きの姿勢が、4種目共通の「泳ぐ基本姿勢」だ。

(厳密には、競泳選手として泳ぐ時の姿勢とは若干違います。近年の競泳選手は、若干猫背気味を基本姿勢にしています。が、ここでは、初心者にどう指導するかが話の趣旨ですので、その矛盾については理解する必要はありません)

 

まだ小さかったり、多少器用な子ならプッカーとずっと浮いたままになる。

ただ、完璧に浮けなくても良い。

初心者が泳げるようになるレベルでは、おおよそ浮けるようになれば十分だ。

 

実際に泳ぐ時にはスピードが出ているため、そのスピードから浮力が得られるし(飛行機がある程度加速すると浮くのと同じ)、軽いキックを打つ事でも浮力は得られるからだ。

 

また、図 4-2のような頭側から補助をいれる方法は、かなり体をしっかりサポートする事が出来るので、子供の両肩を掴んでゆっくりと引っ張りながら、左右にゆらゆらとゆすってあげて、力を抜く訓練にも利用できる。

 

体を左右にゆっくり揺すりながら、水面をゆっくり引っ張りまわして

「水の上に浮くのは気持ちいいなぁ」

と感じさせる事にも利用して欲しい。

 

「怖い」という気持ちが、出来なくしている一番"根の深い"原因なので、その心理を見抜いてあげて、うまく心に補助を入れてあげて欲しい。