学校水泳 (12) 〜 息継ぎ練習の補助 〜 高橋大和 |
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「背面浮き式息継ぎクロール」で泳げるようになれば、後はプールに来て遊んでいさえすれば、勝手に 「みんながイメージする普通のクロール」 になっていく。
なぜなら、遊んでいるうちにどんどん水に慣れて、「水の扱い方」「水中での体の使い方」が分かってくれば、「背面浮き式息継ぎ」は、本人がめんどくさくって、やっていられなくなってくるからだ。
泳ぐ事がだんだん苦しくなくなるので、息継ぎのたびに、いちいち真上を向いて時間を取られるのはめんどくさくなって、小さな呼吸をするように、勝手に自分自身で成長していく。 「自分で勝手に成長できるように」、わざわざ、「背面浮き式息継ぎ」の時、両手を腰横に下げさせずに、「片手が上で、もう片方の手が下」にするように指導したのだ。
図 12-1
「クロールの泳ぎ方にルールはない」のだから、呼吸が楽な「両手を腰横に置いた背面浮き」で呼吸をしても良いのだが、上図のように「片手上、片手下」なら、自分で勝手に「小さい息継ぎ」へ移行していけるメリットがある。
このように、放っておいても自分で出来るようにはなるが、指導した方が当然成長も早い。 クロールで「小さい息継ぎ」を行うための訓練で、補助を入れる位置を示したのが下図だ。
図 12-2
第8章 図 8-2でも説明したとおり、体ごと真横にした姿勢になると、体が急速に沈み始める。
「背面浮き式息継ぎ」で泳げるようになった子は、「体ごと横を向く」のを通り越し、真上を向いて呼吸が出来るようになっているだけだ。 つまり、「顔だけを横に向ける(上半身だけをねじりながら呼吸をする)」という事が出来ない。
したがって、上を向いて呼吸ができなくなると、急に息継ぎができなくなってしまう。 「小さな息継ぎ」「顔を横に向けるだけの息継ぎ」ができないというわけだ。
そこで、子供の両足の間に入って、膝上を両脇で抱え込んで、クロールの上半身動作を行わせ(図 12-2の左側)、子供の速度に合わせて、徐々に前に進んでいく。 もちろん、子供の両手はピーンと伸ばしたまま動作させ、キックをさせる必要はない。
この状態では、息継ぎで「背面浮き姿勢」になりたくてもなれない。 しかし、両ももを、指導者がしっかり支えているので、大きく体を横を向けて呼吸をしても沈まない。
沈まないので、出来るだけ顔だけを横に振って呼吸をするように、子供に指導する。 子供の顔が水面下に沈んでしまうのなら、子供の両モモを持ち上げて、水面に口が出るように補助を入れる。 この補助で訓練を少し行うと、子供は「小さい息継ぎ」の感覚を多少掴んでくる。
コツの掴み具合に合わせて、徐々に補助の位置を後ろに下げていく。 最終的には、両足首を軽く持って補助する程度で、「小さい息継ぎ」が出来るようになる(図 12-2の右側)。 ここまで来れば、図のようにきれいにはなかなかできないが、「小さい息継ぎ」がおおよそ出来るようになっている。
おおよそ出来るようになった子供には、「背面浮き式息継ぎ」と「小さい息継ぎ」を自分で適当に混ぜながら泳ぐように、レベルを上げさせる。 「小さい息継ぎ」で息が苦しくなったら、「背面浮き式息継ぎ」を行って背面浮きで休憩し、十分休息が取れたら、また「小さい息継ぎ」にチャレンジさせる。
この「混合息継ぎ」を行っていけば、だんだん「小さい息継ぎ」の数が増え、いずれ「背面浮き式息継ぎ」が必要なくなる。 ただ、この訓練で子供がよくやるのは、訓練当初は、「背面浮き式息継ぎ」よりも呼吸がやりにくいので、慌ててしまって(不安になって)上半身が縮こまり、肘が曲がったまま手も動作させるようになってくる事だ。
この現象には、注意する必要がある。 「肘が曲がったまま」「上半身が縮こまったまま」というのは、溺れる人間と同じ姿勢だからだ。 これでは、「泳げなくなる訓練」をやっている事と同等になってしまう。
肘が曲がったままの動作では、まったく意味がないどころか、せっかく出来るようになった「背面浮き式息継ぎクロール」ですら出来なくなってしまう危険があるのだ。 その場合、無理して「小さい息継ぎ」の訓練を継続する必要はない。 「背面浮き式息継ぎクロール」で水の扱い方に十分慣れるまで、子供の成長を待てばよい。
「欲張って先走れば損をする。損をしないように、ここは、欲張らない方が良い」 という価値観がある事を、子供が無意識に感じ取る事の方が、泳ぎが速くなる事よりもずっと価値がある事だ。
「成長が遅い事は損」 といった誤った捉え方をしがちな子供に、 「成長が遅い事からも、価値を得る事が出来るんだ」 という事を暗に示せるのが、大人の偉さの見せ所だ。
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