平泳ぎ (17)

〜 キック 2 〜

高橋大和
2008.10.31
大幅修正 : 2009.12.10

  

 

この番組中で、北島選手の重要なイメージ発言がもうひとつあった

「どうやって泳ぐんですか?」というプルとキックのタイミングについて質問された時に

蹴ってかく、蹴ってかく

と北島選手はさっと答えた。非常に軽くスラスラと。

 

少し考えて

「まー、かいて、蹴っても同じですけど」

とは付け加えたけれども、実演はキックの引き付け動作からの説明で入り、実演の最中ずっと、「蹴った時に、〜〜〜」といった具合に、

「キック動作に対して、プルがどうであるか」

という説明の仕方をしていた。

※※ 参考 ※※
ただし、北島選手自身は頭ではっきりとしたリズムを刻んでいるわけではなく、多くを感覚に頼って泳いでいるようです。

この番組の実演説明でも、最初はうまく説明できず、「ちょっと待ってください」と、ひとかきひと蹴りの動作から自分でやり直して、説明を再開していました。

つまり、普段の練習中から、壁を蹴ってタッチするまでの全体の流れの中の感覚で泳いでいるため、「このタイミングでどうだ」とか「プルはこうだ」とか「キックはこうだ」という事はあまり考えていない事になります。

私などは、もっと頭で多くを捉えて泳いでいますので、「さすがは世界一の鋭い感覚」だと感心します。

マイケルジャクソンも「ダンスをしている時に何を考えていますか?」という質問に

「それが一番いけないことだよ。頭で考えちゃいけない。感じるんだよ」

と答えたといいますから、どの分野でもトップの感覚はずば抜けています。

ま、私のような理屈でものを捉えるタイプの感覚と、金メダリストの感覚を比較する事自体無理がありますが。
※※※※※※※

 

1980年代の選手に

「蹴って、かく」

と、キックを先に答える人はまずいない。

普通(1980年代の選手)なら、プル動作を説明して呼吸をした位置から蹴り出す状況を説明する。

これは、偶然の言い間違いなどではない。

 

北島選手が「蹴って掻く」なのか「掻いて蹴る」なのか悩んだ理由は、私自身が2009年に完璧な伏し浮き姿勢が作れるようになり、伏し浮き姿勢を平泳ぎ動作の中に取り入れる事が出来るようになって分かった。

(この記事を最初に書いた2008年10月には別の説明をしていましたが、2009年12月に、訂正しました)

 

北島選手が悩んだ原因は、旧型の平泳ぎと、新型北島式の平泳ぎでは、

旧型 : プル3テンポ、キック3テンポ
新型 : プル2テンポ、キック2テンポ

といった具合に、プルとキックが刻むリズムが新旧で違っているところにある。

 

旧型の平泳ぎのコンビネーションでは

 

【1テンポ目(プルが主体)】
手を開いて

【2テンポ目(プルとキックのドッキング 1)】
手を抱きこみ、足を引き付け

【3テンポ目(プルとキックのドッキング 2)】
手を前に戻しつつ、足を回す

【4テンポ目(キックが主体)】
足を挟んで閉じて、伸びる

 

というテンポだったため、プルとキックの動作を、1テンポ目と4テンポ目としてはっきり感じ取る事が出来た。

 

しかし、新型の平泳ぎでは、プル/キックともにコンパクト(2テンポ)になったせいで、コンビネーション時のタイミングが


【1テンポ目】
手を開いて

【2テンポ目(プルとキックのドッキング 1)】
手を内側に閉じて、足の引き付け

【3テンポ目(プルとキックのドッキング 2)】
手を閉じる動作の続きの中で、そのままキックの蹴り出し、そのままストリームライン

 

というタイミングで動作するようになった。

唯一独立しているのが、1テンポ目の手を横に開く動作だけで、プルとキックの動作の大半は融合しており、「どこまでがプルで、どこからがキックなのか」の感覚の境目が、曖昧になる。

新型の2テンポ目と3テンポ目の動作を、プルというのか、キックというのかわからないため、北島選手が、「蹴って掻いて」なのか「掻いて蹴って」なのか迷ったものと思われる。

 

2テンポで動作するコンパクトキックについては、次章で述べる。