弾道スタート理論(8)
〜 Ballistic Start Theory (8) 〜

高橋 大和
2007.11.20

  

 

【まとめ】

理論的には細かく難しかったと思うが、結果は非常にシンプルであり、スタート練習で特に意識する事は以下の3点である。

 1. 腰の位置を高く構え
 2. 出来るだけ高い位置のまま腰をまっすぐ前に放り出し
 3. 入水直後、足をストリームラインより下に落とさない

 

これまで述べてきた細かい角度等は理論的数値としては重要ではあるが、選手が実際にスタートを行う時には、気にする必要はない。

なぜなら、実際の動作では、理論値どおりの理想の動作が毎回できるわけではなく、細かなブレが発生するからだ。

実践レースでは、スタートだけでなく、泳ぎにしても、メンタル面においても同様に、持っている実力だけを問われているのではなく

「さまざまな状況に即時に対応し、自分の持っている実力を最大限に引き出していく能力」

を問われる。ブレを小さくしていく事も大切だが、毎回発生する細かいブレに瞬時に対応していく能力を鍛える事も大切だ。

従ってこの弾道スタート理論においても、きっちりとした数値を捉える事より、「理論の示す方向性」を読み取ればよい。

スタート動作は

1. スタート台上の動作
2. 空中動作
3. 入水動作

の3つの局面から成り立っている。

理論からは、空中動作は入水動作に繋がるような動作であれば、基本的に自分の好きなように動けばよく、重要度は低いという事が分かった。

従って、「スタート台上の動き」と「入水動作」に絞ってスタート練習を行えばよい事を理論は示している。

理論は、スタート練習を3ステップで行っていけばよい事を示している。

 

Step 1. スタート台上動作の練習

「スタート台から、真ん前に腰を蹴り出す」

事を練習する。

この部分はおおよそ前に飛び出せるようになれば、それ以上はタイム的に効果は少なくなってくるので、Step 1はそこそそこにしてStep 2へと進む。

 

Step 2. 入水練習

「入水直後の動作」

を練習するようにする。入水直後に下半身を落とさずにストリームラインへと繋げていく事に意識を置く。

この部分は、スタートで一番差がつく部分である上に、技術的に非常に難しいため、一番多くの時間をかけ、丁寧な積み上げが必要だ。

 

Step 3. スタート台上動作のより細かい練習

Step 2までの練習でスタートはほぼ完成の域までいくのだが、泳ぎやスタートを極限まで極めていくために

「より速く、より効率的にスタート台をまっすぐ蹴り出す方法とその構え方の模索。リアクションタイムや入水後の動作への繋がり具合とのバランス」

といった、細かいテクニックを追求していけばよい。

オリンピッククラスの選手でJISSが利用できるのであれば、自分の蹴り出し速度を計って、

「自分には、蹴り出し速度を上げる事を目指した方が有利か、それともリアクションタイムの速さを目指した方が有利か」

といった事を模索する事も可能であろう。

また、私自身の感覚だが、スタートの構えから素早くまっすぐ前に飛び出す動きは、デットリフトの動作に近く(グラブスタートの構えから素早く垂直ジャンプする動作に近い)、デットリフト的な動きを強化する陸上トレーニングは有効と思われる。

ただし、デットリフトといっても、重いものを持ち上げる力を鍛えるのではなく、屈曲姿勢から瞬時に伸び上がる姿勢に持っていく瞬発能力を鍛えなくては意味がない(腰痛持ちには、かなり苦手な動作だ)。

いずれにしてもStep 3は、泳ぎのテクニックを追求するほどのタイム効果は期待できないため、オリンピックといったような自分のパフォーマンスの限界に挑戦するような段階にまで泳ぎのレベルが高まってから行っていけばよい。

というのは、確かにスタートの0.1秒はレース直前でも微調整していく事のできる重要なものなのだが、「泳ぎのテクニックはスタートに」「スタートのテクニックは泳ぎに」それぞれ応用が利き、相乗効果があるものであり、限られた練習時間をバランスよく、うまく配分していく方が効率的であるからだ。

ただし、頭の中で考えるのは、トレーニング期でも調整期でも練習時間外でも、いつでも出来る事なので、スタートにしろ泳ぎにしろ、より良いアイデアを常に考え、思いついたアイデアを試していく事は競技レベルに関係なく大切な事である。