弾道スタート理論(1)
〜 Ballistic Start Theory (1) 〜

高橋 大和
2007.11.20

  

 

「速いスタート」は

 1. 腰の位置を高く構え
 2. 出来るだけ高い位置のまま腰をまっすぐ前に放り出し
 3. 入水直後、足をストリームラインより下に落とさない

である。

 

【序論】

「弾道スタート理論」は、スタートが遅い選手に理想のスタートの形を示す事で、イメージを作ってスタート練習の方向性を持たせる事ができる。

競泳では「泳ぐ」理論は、たくさんの解説がされており、時代時代に理想のフォームというものが提唱されている。

例えば、少し前の自由型では「1軸S字ストローク」が理想とされ、2007年の現代では「2軸ストレートストローク」が理想とされており、それぞれ理論上の良い点が示されている。

キックにおいても2ビート、6ビート等のそれぞれのメリットやデメリットが示され、選手は自分に合ったキックのスタイルを模索する事が出来る。

理想のフォームというものが競泳界に提示され、それを知るという事は、

「速く泳ぐには、こういうフォームを目指せばよい」

といったように、自分の向かうべき方向を打ち出してトレーニングを行うことが出来るという事である。

仮に「理想」と言われるフォームが間違っていたり、自分には合わなかったとしても、ひとつの方向を試した事で、早い段階で、「自分の向かうべき方向を修正する」という作業に取り掛かれる。

ところが、競泳のスタートに関しては、理想のスタートというものが提唱さていない。

「スタートを速くするには、どうすればよいのか?」

と聞くと、「クラウチングスタート」「グラブスタート」「パイクスタート」といったスタート動作の表面を漠然と捉えた事でしか指導を受けない。

「より遠くに、一点入水」

といったように漠然とした理論はあるが、実際にどうすれば、より遠くに一点入水できるのか示されていない。

漠然とした概念では、自分の向かうべき方向や理想とするスタートのイメージを作る事が出来ない。

[より遠くに、一点入水]スタート理論は、漠然と文字通り受け取れば、間違った解釈をし、間違ったスタートを目指す事になる。

これでは実際に

「自分のスタートを速くするにはどうしたら良いか?」

という事を考え、練習し、スタートを速くしていく事ができない。

特にスタートの場合、飛び込んでから浮き上がるまでのわずか10秒程度の動作であり、スタートの成果をタイム計測から行うには無理がある。

泳ぎの場合には短くても25Mや50Mといった時間を計測し、そのタイムから「この泳ぎは良い」とか「悪い」とか判断していく事が出来る。

しかし、スタートは仮に計っても、私のブレストスタート15M通過タイムですら7〜8秒程度の動作である

同等の競技レベルの選手においても、スタートの速い選手、遅い選手の差は、最大でも0.4〜0.5秒といった1/10秒スケールでしか現れてこない。

スタート練習の成果を通過タイムによって判断するには、1/10秒スケールでは測定誤差が大きく、計測タイムは参考程度にしかならない。

さらに「泳ぎ」の成果は、サークルクロックを見ながら一人でも練習を積んでいけるが、スタートの場合、誰かにタイム計測をお願いしなければならず、「タイム計測から成果を確認しつつ試行錯誤しながら練習をする」というわけにはなかなかいかない。

つまりスタート練習をしたとしても、多くの場合、自分の感覚による「良い悪い」に頼ってしか練習が出来ないわけである。

しかもスタートの遅い選手というのは、子供のころからスタートが速い選手と比べてスタートにおける「感覚」が鈍いから、いつまでもスタートが遅いわけである。

目指すべき理想のスタートが分からない上に、その鈍い感覚に頼った練習だけでスタートを改善していくのは、かなり無理がある。

これが、「泳ぎは速いけど、スタートから浮き上がりまでが、いつも出遅れる」という選手が結構いる原因である。

確かに泳ぎでも、最終的には天性の感覚が優れた選手が有利であるように、スタートも最終的には天性の感覚が優れた選手が速い事は致し方ないことだ。

しかし、泳ぎも素質とは別に、練習という努力によって速くなるのであるのなら、スタートも素質とは別に、努力によって個々人の限界まで速くなるはずである。

そこで「弾道スタート理論」というものを提唱し、細かく理論を解説する。

細かい理論を理解する事で、イメージを固める事が出来るはずだ。

理論を説明するにあたってスタート動作を、

第1局面 : 「踏み切りまでの動作」
第2局面 : 「踏み切り後から着水までの空中動作」
第3局面 : 「着水からストリームラインまでの動作」

の3局面に分け理論的に分析していく。理論を理解しやすいように

第2局面 => 第3局面 => 第1局面

の順に説明を行っていく。