| ゼロ と 
      無限大 
       
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| 子供の頃、服を「後ろ前」に着て笑われる事がありました。
       タグの向きをよく確かめるようになったからでしょうか、大人になった今では、ありません。 
 散歩をしている時、ふと振り返ってみるとステキな風景が広がっていて驚く事があります。 いま来た道なのに、後ろ向きに見る風景は、それまでと違って見えるから不思議です。 
 水泳を「競技」として続けていくと、「強さ」は、見えなくなります。 「金メダル」 それが強さだと信じて夢を持ち、競い始めますが、ほとんどの人のその夢は、もう少しの所で叶いません。 
 前向きな挑戦へと駆り立てていたそれまでの大きな夢が、自分を苦しめ、支えきれない重荷になったりもします。 僕は10年間も水泳から離れました。 
 その一方で、水泳を続けた人たちもいます。 「僕よりも、夢から遠い位置にいた人たちにも」です。 
 10年のうちに、彼らは僕よりも前を泳ぐようになっていて、30歳の時、国体で一番高い所に立っていたのは、それまでずっとノンタイトルだった選手たちでした。 ブランクを経て、さっと復帰してきた元日本代表選手でも、彼らには勝てません。 
 夢を叶えて強かった選手たちが負け、夢を叶えられずにそれでも泳ぎ続けた選手が勝つ。 「強さ」に形はなく、「続けること」、そこに強さはありました。 大切なものはいつもシンプルで、目には見えないから、掴み所が難しい。 
 
 「前向きに生きる」 僕には無理です。僕の未来は、押し潰されそうな不安でいっぱいです。 
 目の前の、問題に立ち向かえなくなったら、惨めにひれ伏します。 背中を向けても耐えられないのなら、あらゆる常識から逃げ出して、自分を守る覚悟をしています。 そんな後ろ向きな生き方でも、競技と同じで、その先にはきっと、到達する何かがあるはずです。 
 ただ、長い年月の中で状況が変わってやれそうな事が出てきたら、やります。 グイグイとやります。 
 だって、マイナスがプラス側に転化した時の力は、プラスをプラスに利用した時よりもずっとずっと大きいでしょ。 右の先には左、左の先には右があって、右も左も裏では繋がっていて同じ事なんだけど、そこを目で見ることは出来ないから、理屈とは違う所で感じてあげなくちゃいけない。 
 僕には夢なんてないけれど、他に選択肢がないのなら、後ろ前にやってみるしかないじゃない。 振り返ったその思い出に、何を感じるのかは分からないけど、会社を辞めて危ない橋を渡ってしまうというのは、僕のそういう弱さなのです。  | 
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